都合のいい異世界、それに魔法や神が本当に存在するのか⁉ なんて事を考えてたら異世界転移してました。
菰野乃梟
6×?で異世界を救う ~始まりの物語~
第1話 夢か走馬燈か……いや、異世界の話だった
『あれからどの位たっただろうか……』
『いや、まだまだ全然である……』
『ようやく一週間ほどだ……』
『これは何だろう……まるで走馬燈の様に……』
太陽の光に直撃され目を覚ましたのは、昼だった……
自分自身、本当に昼まで寝ているとは思わなかった。
取り敢えず、昼食をとって練習に行こうと着替えを済ませて、腰に刀を差す。
「うん。なかなか様になってるな!」
ちょっとウキウキ気分で食事に向かうと、そこにはカルノスとアルティもいて、自分を見るなり
「やっと起きて来た!」
「もう昼だよ!」
と二人して非難の声を上げてくる。
『彼らはこちらで出会った頼もしい仲間である』
いやぁ~そんなに若くないから……と思ったが、今は同じ若人だったと思い出す。
そして、どうも自分に話がある様だったので一緒に昼食をとりながら話を聞く事にした。
その話とは頼んでいた家の件だった。
自分が寝ていた午前中に村長が来て空き家の件を話していたらしいのだが……
結論から言うと普通の空き家を見つける事は出来なかったらしい。
それに空き地も全て埋まってしまったという事だった。
人口急増の影響で住宅事情は逼迫しているんだな……
『こちらの世界で自活する為の拠点を探していたのだが、この村も今は色々大変の様だった』
まぁ、開墾地もあれだけ広げているんだから当然か。難民は住まいも食料も持っては来ないからな……現地で調達するしかないと言ってもこの森の中では簡単には土地を広げられないだろうし、仕方ないかと納得しかかってある事に気が付いた。
「普通の空き家は、て事は普通じゃないのがあるのか?」
二人は微妙な表情を浮かべながら頷いた。
「そうなんだけど……ちょっと危険な場所なんだよ」
「そうそう、あそこは大爪熊の縄張りになったんだ。だから近づくと襲ってくる! しかも厄介な事に巨体種ときたから手も足も出ないんだ」
「それはそんなに危険なモンスターなのか?」
「竜種のフォレストバジリスクと同じ位強いかな。でも普段は人を襲う事はないし、人里に入って来る事もないんだけど……脅かしたり、子連れだったりした場合、それとオスの縄張りに入った場合は襲ってくるんだ。その爪の一撃は鉄の盾も貫通するし、魔法抵抗力も強いからこの村の戦力では厳しいって事で今まで放置されてたんだけどね」
村の戦力でも厳しいって……それはちょっと無理かな……それが率直な感想だった。
『自分はまだこの世界に来て日が浅い新米冒険者だ。とても強力なモンスターと渡り合うだけの実力が無いのだ』
「その縄張りの場所は、村から一〇分ちょい歩いたところで、昔は人が住んでいたんだ。けど空き家になって放置していたら、いつの間にか大爪熊の縄張りになってたと……」
「……話を聞く限りその空き家は諦めた方がいいかな。とても自分でどうにかできる感じじゃないし」
「そうなんだけどね……ただ、あそこは農地もあったから、この人口増加に対応する為にも村長は何とかしたいみたい」
そう言ってアルティがこちらを見つめてくる
「いやいや、無理でしょ⁉ 村の戦力で倒せないんだったらどう足掻いても無理だって」
残念ながら今の自分の戦闘力で倒せるとは思えない…… チート能力がある訳でもないのに少し訓練した程度で手に入れられる強さ何てたかが知れている。
「えっと実はね、別に大爪熊を倒す必要はないんだ。要は縄張りを放棄させればいいんだよ」
えっ? それって簡単な事なのか? と怪訝な表情でアルティとカルノスを交互に見ていると、二人は『大丈夫!』だと言わんばかりに笑顔で親指を立ててみせた。
『結局、二人の口車に乗せられこの作戦をすることになった』
それから二週間後……
村の北を少し進むと雑草と低木が生えた土地に出た。そこには細い水路が通され奥には蔦植物に覆われた家らしきものが見える……ここが例の大爪熊の縄張り兼住居習得予定地である。
「これ、作戦がうまくいってもその後が大変そうだな……」
「そこは僕たちも手伝うから大丈夫だよ。それよりも警戒を怠らない様に」
「じゃ、俺は先に行って蜜酒を置いてくるから」
カルノスは蜜酒の樽を背負って森との境の方へ走っていった。
ここでの目的は、大爪熊からこの地を取り返すこと! つまり縄張りから外させる事なんだけど、その方法とは、単純にここで戦って勝てば出ていくらしい。
いわゆる雄同士の縄張り争いである。
と言っても、まともにやって勝てる訳もないのだが……これが、どんな手を使ってでも勝てば良いと言う事らしい。
そんな訳で今回の作戦は、酒で酔わせて、更に硫黄の煙で視覚と嗅覚を奪って完全に戦力を削いでから、尻尾を切り落とす! と言うものだった。
ここまですると卑怯と言う言葉がちっぽけに思えてくるが、これでも討伐するとなると犠牲が出かねないと言う凶悪さなのだと言う……
そう、これは卑怯なんじゃなく、人類が培った知恵だ! と言う事にしておこう。
「しかし、あんな小さな樽で足りるのか不安なんだが」
「大丈夫だよ。あの蜜酒は甘露蜜で作ったからね、あれならドラゴンだって間違いなく酔わせられるよ。あのギルが『自分が倒してやるからその酒をよこせ!』て言うくらいだから味も度数も最高なはずさ」
……この世界のドワーフも酒好きなんだな。いや、現世の伝承がコチラに影響しているのかも知れないな……しかし、ハイドワーフのギルなら簡単に倒せそうだけど。
「レン兄、カルが配置に就いたみたいだから僕たちも移動するよ」
少し余計な事を考えていたが、アルティに促されて縄張りの外から酒樽が見える場所に移動した。
ここで大爪熊が酒を飲むまで待機し、そしてタイミングを見計らって自分が大爪熊の前に飛び出して挑発すると……
この作戦を聞かされてから二週間、バイトの後に時間の許す限り走り込みと刀を振ってきたが、そんな初心者がやる役じゃないよなこれ。
しかし、この役は自分がやる事に意味があり、ここに住む者が勝つ事で追い払った後も近づかない様になるという事らしい……
尻尾の切り落としは大爪熊同士の勝利条件の一つである様で、見事撃退した暁にはカルノスが魔法で森と居住地の間に壁を作る。
これは動物で言うところのマーキング代わりらしい。
これでその内側が自分のテリトリーになると言う仕組みだ。
ではこの作戦を大人数で行わないのかと言うと、人が多いと最初から大爪熊が戦闘モードになる危険性が極めて高いからだそうで、この三人での決行となった。
因みに、この作戦はアルティとカルノスの発案で、こんな前例は聞いた事がないと大人たちが言っていたのが不安なんだけど……
この世界に来て三週間。ここで死んだりしないかと、少し不安になる……
『あれ? もう三週間も経ったんだっけ? ……いや、さっきの一週間て言うのが違うのか?』
それから草むらに身を潜めて一時間は経ただろうか。
アルティは辺りの様子を見に行って今は一人だ……この嫌な緊張感の中一人だと悪い想像ばかり浮かんでくるのだが、これはどうしようもないと思う……これから初めて、正面からモンスターと対峙するのである。
いくら良い装備を身に付けているからって、使いこなせなければただのガラクタだ。
現世でも、モノは高性能で便利なのに使い手がダメなら事故が起きる……だからこの二週間は防具を付けて刀を振る事だけに集中してきた。垂直・斜め・水平これを上下左右満遍なく繰り返した……ここに来る前に賢者様から心形刀流なんて大層な知識をもらったが、モンスター相手の実戦で役立つとは期待していなかった。
刀を武器に選んだ時点で刀での切り方を知らなかったので、古流がカッコいい位の気持ちだった……
しかし昨日、細い丸太を切った時に、その凄さを実感した。之定自体が凄いのかもしれないが、まるで豆腐を包丁で切った時の様な……丸太がスパッと切れるあの感覚が……なんとも……エヘヘ
「ど、どうしたの? そんなだらしない顔して……それより来たよ」
おっと、どうやら緊張から逃れる為に少しトリップしていたらしい。
『最上位大業物の一振り「之定」が「賢者様」から貰った自分の愛刀である……賢者様?』
偵察から戻ってきたアルティの言葉に我に返り、酒樽の方に目をやると奥の森の中から黒い
塊が近づいて来るのが見えた。
見えたのだけど……四足歩行のはずだけど……既に三メートル越えてないかアレ……
現世の熊なら大きくても立ち上がった状態で三メートル位だったはずだけど。
巨体種だとは聞いていたけど、アレは立ち上がれば六メートルはあるように思えた。
しかも名前の通り見た目は熊その物だが爪の大きさは半端ない、熊の爪と言うよりオオアリクイの爪じゃないかな……軽く撫でられただけで死ねるねアレは……
現れた大爪熊は、多分こちらに気が付いているんだろう……こちらを気にしながらも蜜酒の誘惑に勝てないのか酒樽に近づいて来た。そして、もっと警戒するかと思いきやアッサリと蜜酒を舐め始めた。
「あんな怪しいモノをすんなり飲んだ……しかも想像と違い舌が細長いな」
目の前に現れた巨体に唖然としながらそんな感想を口にすると
「変なとこに興味持つんだね。あの細長い舌を器用に使って岩の間の蜂蜜なんかを食べるんだけど……まぁ、あの極上の甘露蜜の蜜酒には抗えないよ。それに、もう酔い始めたかな」
さっきまでは四つん這いで悠然と蜜酒を舐めていたのが、今はフラフラと酒樽を中心に回りながら舐めている……
早過ぎないか⁉ そんなに度数が高いのか、もしくはネコ科に対するマタタビの様な作用があるのかもしれないと思い見ていると、やたら大爪熊の周りを小鳥らしきモノが飛び回っているのに気が付いた。
今からあれと対峙しないといけないのに、自分でも変な事に興味が湧くものだと思う。これは自身の性なのかもしれない……
「なぁ、あの周りを飛んでるのは、鳥?」
「そうだよ。蜜酒につられてハチドリが寄ってきたんだね。あの鳥は他の動物がハチの巣を襲撃した時のおこぼれが目当てなんだ。でもハチドリは尾羽の毒針で刺してくるから気を付けてね」
何それ⁉ 怖い!
この世界のハチドリは毒針持ちなんだ……緑や青に赤とカラフルな羽が光にきらきらと輝いて綺麗なんだけど……そういやどこか外国には羽に毒を持つ鳥がいた気がするな……
「じゃ、レン兄。予定通りお願い。くれぐれも合図するまで近づき過ぎないでね、死んじゃうから」
「……了解した」
そう顔を引きつらせて答えた自分を置いて、アルティは移動していった……さて、腹をくくるか!
既に大爪熊が酔い始めているのを確認して、自分はバッと立ち上がり草むらを駆け抜け相手の前に出る……当然、十分な距離は取ってである。
そして之定を構える。
そんな自分の姿を認識した大爪熊は、蜜酒が取られると思ったのか酒樽を腹の下に隠す様に覆いかぶさり咆哮した。
が、何となくその咆哮に迫力が感じられない。口元からはだらしなく舌が垂れ下がり、後ろ足では既に立てない状態だ……これなら楽勝かも知れないが、酔っ払いでも一撃食らえば即死だろから気は抜けない。
ここで死亡フラグを立てる様な愚行はしないさ!
『あれ⁉ 死亡フラグ…… そう言えは……何か危険な目に合ってた様な気が……』
之定を構えて威嚇するこちらに、時折咆哮してくるが襲い掛かってくる気配はない。
一度立ち上がり両手を振り被った時にはその想像以上の迫力に思わず逃げ出そうかと思ったが、すぐにふらふらと尻餅をついた。
それ以来その場でコチラを威嚇する以外は、周りを飛び回るハチドリをたまに追い払うだけだった。
そして、十数分対峙しただろうか? 今まで四つん這いでコチラを睨んでいた熊がいきなり前のめりに倒れ込みそうなほど体勢を崩した。
相当酔いが回ってきている感じだと思った瞬間、大爪熊を黄色い煙が包んだ。
「今だよ!」
その声に用意していたゴーグルとマスクをはめて、右から大きく回り込んで熊の背後に走り寄った。大爪熊は完全に混乱している様で、その場に尻餅をつく形で座り込み、鳴き声をあげながら両手でしきりに顔を撫でまわしている。
間近で見る大爪熊は半端なくデカかったが……
「大丈夫、恐怖はない! 体は動く!」
と確認して之定を振り上げた、その時……左から何か気配を感じた。
『そうだ! あの時、自分は大爪熊と……』
その時は、何となくの気配に、振り上げた之定を持つ右手を回転させ切っ先を下に向けて刀の背を自身の左の二の腕に押し当てて重心をかけて踏ん張った。
と、次の瞬間、少しの衝撃があったかと思ったら、目の前に獣の手があった。
えっ⁉ と思う間に『これはマズイ!』と咄嗟にそのまま後ろに飛び退いたが、着地の時に丸太を踏んでそのまま後ろに倒れ込んだ。
「あっ、これは死んだかも……」
昔、自転車で吹っ飛んだ時と同じ様に倒れ込みながら走馬燈が頭の中をよぎる……あぁ失敗した……之定もなんか淡く光って……短い異世界生活だったな……
『ああぁ……そうだ……全て思い出した……』
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