7

不機嫌だった男の子の声も、真剣味を帯びる。


「あっ、じゃあ誰もいないはずの屋敷から、灯りや声がするって言うのは…」


―あながち、ただの噂じゃなかったってこと。だから近付かない方が良かった。迂闊に近付けば、彼等に引きずり込まれてしまうから…。


そう言った少年の足がゆっくりになり、ふと横を見た。


だからアタシも思わずそっちを見た。


5センチほど空いた襖の隙間から見えたのは…地獄、だった。


着物を着た男女が部屋いっぱいにいた。


そしてその誰もが、笑っていた。おかしそうに。


…その体を自身の血で濡らしながら。


血は切られた肌や、潰れた体の至る部分から絶えず流れ出ている。


中には臓器や目玉を垂れ下げながら、笑い、踊り狂う屍もいた。


あまりに異様な光景に、気が遠のきそうになる。


―ほら、行くぞ。


けれど無愛想な男の子に手を引かれ、再び気を戻す。


…だけどあの襖の向こうの光景は変わらない。


そして…気付いてしまった。


あの屍達の中には、現代の者と思しき服装や髪型をしているモノもいた。


きっと、彼等に引きずり込まれてしまったのだろう…。


その肌は真っ白で、顔色もすでに生きた人間のそれではなかった。


屍達の宴―終わり無き悪夢だ。


2人の少年が再び歩き出したので、アタシも足を動かした。


「彼等は…もう戻れないの?」


―ムリだな。ああなってしまったのは、自業自得だ。


―それに『戻る』と言うより、『行く』ことができないと言った方が正しいかもね。…もっともあの人達、自分がどこに『行く』のかも分かっていないみたいだけど。


…そう語る少年の声は、少し沈んでいた。


彼等のことを、少なからず心配しているからだろう。


やがて、日の光が差し込んできた。


出口が近いんだろう。


アタシはぼんやりしながら、2人の少年を見た。


アタシの目の前にいる、2人の少年。


彼等のアタシの手を掴む小さな手は、とても冷たかった。


まるで…生きていない人間の手のように。


その後は3人とも無言で歩き進む。


時折、いろんな所から人の声や物音が聞こえてくる。


…楽しそうだ。


それだけが、彼等の唯一の救いなのかもしれない。


例え一生、この屋敷から出られずとも、彼等には心から笑い合える仲間がいるのだから…。


アタシと違って。


屋敷から出て、門をくぐった時、夕日の眩しさに目が一瞬眩んだ。


すでに外は夕方色に染まっていた。


入った頃はまだ、お昼過ぎだったのに…。


「随分…時間が経っちゃったのね」


―この屋敷には、時間なんぞ関係ないからな。


―まっ、戻って来れたのが『今日』なだけ、ラッキーだよ。今なら電車にも間に合うし。


そう言って、2人の少年は手を離した。


冷たい2人の手のおかげで、アタシの心も静かになっていた。


「…ねぇ、アタシの仲間達はどうなったの?」


―あの人達はすでに、彼等の仲間だよ。


笑顔の少年に言われた言葉に、思わず意識が飛びそうになった。


…いや、予想はしていたことだった。


「なら…どうしてアタシは無事なの? …いえ、見逃してくれたの?」


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