6

薄暗い中、2人の少年はそれでもしっかりした足取りで歩く。


―ねぇ、おねーさん。この屋敷の話、知ってる?


「んっと…、噂話程度なら。ここで多くの人が亡くなったとか…」


―その話なんだけどね。


笑顔の少年がクスクス笑いながら、そして無愛想の男の子は不機嫌に語り出した。


かつてこの屋敷であったことを―。




昔、この屋敷の主人は多くの女性と関係を持ち、子供がたくさんいた。


その中で、よりにもよってこの地方の神様を祀る女性に手を出し、男の子を産ませた。


その男の子は頭が良かった為、主人は母親から男の子を奪い、この屋敷に連れ去り、養子とした。


だが周囲の者達は、その少年が主人の実子であることに薄々気付いていた。


そして跡継ぎに、少年を選ぶのではないかと囁かれ始めた。


やがて疑惑は悪心を呼び起こし、主人が遠出している時、ついに家の者は少年を手にかけようとした。


しかし―逆に家の者が、皆殺しにあった。




「…そこまではアタシも知っているわ。でもその少年は…」


―うん、行方不明になったって言われているね。でも大事なこと1つ、忘れていない?


―大事なこと?


―ああ。その少年の母親が、巫女だったってことだ。


巫女…そう言えば、説明された中にそんな風な言葉があったっけ。


「でもそのことと、少年のことがどう関係するの?」


―この地域の神様ってちょっと変わっててね。この町にお寺や神社がないこと、知ってた?


「えっええ。看板も見当たらなかったわね」


―それはこの町に、寺や神社が必要ないってことだ。


「でも少年のお母さんは、神様に仕えていたんでしょう?」


―…まあそこがちょっと複雑なところでさ。


少年達の説明は続く。


この町には寺や神社は存在しない。


ここの神様は土地の神様で、町に点在するお地蔵さん自体がご神体となっている。




…だからお地蔵さんには、新しいお供えがしてあったんだ。




そして少年の母親は、お地蔵さんを統一する家の者。


少年はその家の最後の1人だったと言う。


だからその少年に何か被害を及ぼそうとするのならば…。


お地蔵さん達が、黙っていない。




……それじゃあ家の人達は、少年に返り討ちにされたのではなく、お地蔵さん達に…?


心に浮かんだ疑問を、言葉としては出せなかった。


言った途端、何か恐ろしい目に合う予感がしたからだ。


―お地蔵さんにもいろんな種類があってね。子供を守る優しいお地蔵さんもいれば、自分を祀る者を傷付ける者に厳しい罰を与えるお地蔵さんもいる。


「…じゃあ、この屋敷の人達を手にかけたのは…」


―ああ、守り神ってことだ。


「じっじゃあ、少年はどうしたの? お地蔵さんに連れてかれちゃったの?」


―そうじゃないよ、おねーさん。その少年は元の居場所に戻っただけだよ。


元の居場所?


…あっ、母親が神道系の者で、少年はその血筋の最後の1人だったなら…少年は『そこ』へ連れ戻されたんだ。


この町の、守り神の手によって。


だから少年は行方不明ということになってしまったんだ…。


―ところが話は終わりじゃないんだ。


突然、明るかった少年の声が低くなった。


―守り神によって死に絶えた人間はその後、悪しきモノとなる。この屋敷の者達全て、悪しきモノへと変貌したんだ。

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