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女性が料理を運んできたので、会話は一時中断した。


そのまま食事を終え、食後の飲み物を男性がご馳走してくれた。


仲間は素直に喜んだものの、どうやら男性は足止めをさせたいらしい。


アタシ達に、この町に伝わる話を語り出したから。


この町には昔、幼いながらも頭が良い子供が1人いた。


その子供は大地主に気に入られ、その家の養子となった。


おかげで町や大地主の家は大変栄えた。


ところが大地主には多くの妻と子供がいて、養子となった子供を歓迎はしていなかった。


なので大地主が他の町へ行っている間に、子供を殺そうとした。


だがその目論見は失敗した。


大地主が家に帰ると、そこに生きている者はいなかった。


全員、殺されていたのだ。


その子供以外は―。


ところがその子供はいくら捜しても見つからなかった。


大地主は絶望し、家を捨て、町を出てしまった。


それ以後、その家には誰も住んでいないはずなのに、時折灯りがついたり、人の声が聞こえるという。


その家とは、くしくも今からアタシ達が行こうとしている屋敷だった。


男性は話し終えた後、あの屋敷に入ろうとした人が次々と行方不明になっていると言った。


だからアタシ達に、近付かない方が良いのだと…。


仲間達は少し暗い気分になったものの、すぐにお会計を済ませて店を出た。


さすがに不安になったのか、仲間の1人が行くのを止めるかと聞いてきた。


しかし言いだしっぺの彼が、意地になって行くと言った。


その気迫に押されて、アタシ達は再び歩き出した。


―あの屋敷を目指して。


電車で見た時は感じなかったが、あの屋敷は駅から結構遠かった。


しかも森の中だ。


迷ったらそれこそとんでもないことになるだろう。


けれど仲間の歩みは止まらない。


アタシは歩きながらも、さっき聞いた話を思い出した。


例の子供の行方について。


普通なら、殺しに来た人達を返り討ちにして、逃げたと考えるだろう。


でも逆の発想をすれば、それは不可能に近いのではないだろうか?


1人対複数。この図式はあまりに不利と見える。


しかも屋敷に居た全員を殺めたというのは、いくら子供が優秀でも成せることとは思えない。


…まあ昔の話だから、どこまでが真実なのかは全然分からないんだけど。


やがて例の森の入り口にたどり着いた。


…着いてしまった。


森の入り口には1つのお地蔵さんがいた。


お地蔵さんを見ているうちに、ふと何かが引っ掛かった。


それはお地蔵さんに供えられているお水とお饅頭だ。


どちらもまだ新しい…。


ついさっき、誰かがそなえたみたいだ。


今時お地蔵さんにおそなえをする人なんて、珍しいな。


そう思いながら、森の中に足を踏み入れた。


道は土道ながらも一本道。


昔は馬でもひいていたのだろう。幅が広くて歩きやすかった。


…歩いて20分ほど経ち、アタシ達はとうとう例の屋敷の前に来てしまった。

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