第7話 戦い始めた少年
「【私は見―――】っ!」
目の前に現れた
しかし詠唱が終わる間も無く、
「危ねぇッ!!」
間一髪でティアに向かって飛び込んだカイトが、ティアを抱き込んで地面を転がる。そして先程までティアが立っていた場所には、
「怪我はないか?」
「………ありません」
腕の中で身動ぎ一つしないティアに、カイトが声を掛ける。それにティアは小さな頷きで返した。
「ならば! 【ルーインの名を――っ!!」
「長い詠唱は駄目だ! もっと短くないと間に合わないぞ!」
さっきの
「――だったらボクが、【大地よ!】」
今度はエッダが急いで叫ぶ。すると大地から1本の手のような物が伸び、
だが
(…やはり、詠唱が足りないかっ!)
詠唱は魔力を流す言霊であり、詠唱が短ければその分流れる魔力も少なくなるのだ。そのため想描した【魔法】は、本来の具現化には至らない。威力が弱く、ほとんど使い物にならないのである。
「【アオォォォオオンッッ!!】」
そのまま開いた口の中にある鋭い牙を、エッダに向けて突っ込んで行く。
「―――っ!!」
エッダが声にならない悲鳴を上げた瞬間、カイトが
「【風よっ!!】」
カイトの詠唱により【魔法】が発動し、小さな嵐と呼べる程の 暴風 が
「―――ッ!!!」
今度は
「…凄い。あんな短い詠唱でどうやって?」
「魔力量は取り柄の1つなんだよ」
未だ腕に抱いたままであったティアが、その鈴音のような声で疑問を口にした。カイトはその問いに対し、簡単に答えた。
授業でも習ったが、詠唱はその身に宿す魔力が多ければ短くてよい。
例え詠唱が短くても、その短い中で多くの魔力を流せるからだ。その身に多くの魔力を宿している者だけが、可能とする技の1つである。
「……だが相手さんも、簡単にはやられちゃくれないみたいだぜ」
既にカイトの【魔法】を振り払った
「よし、ならみんなで一斉攻撃っしょ!」
そう提案したチロルが、クラスメイト達に視線を向ける。
「確かにそれなら、相手も気が散るはずだよね!」
「あぁ、その作戦が得策と言えるだろう」
「私も微力ながら、お手伝いします」
「よっしゃー! ウチも戦うぞー♪」
チロルの声に反応したエッダとリゼット、アシスとユレメが一斉に詠唱を始める。
「【俺っち全力! ―――」
「【大地よ! ボクの声が―――」
「【ルーインの名を持つ―――」
「【私は願います―――」
「【本気出しちゃうぞ! ―――」
「【アオォォォォォオオオンッッ!!!】」
5人の詠唱をかき消すように、
そしてカイトは感じた、
「 ―――みんな伏せろぉぉぉっっ!!」
カイトがクラスメイトに向けて大声で叫ぶ。
『------ッ!!!!!』
その声に、ほぼ反射的にクラスメイト達が地面に伏せる。
刹那、
(………やはり、
迷いの森に生息している
その高い知性により、今までに戦った狩人達が使っていた【魔法】を記憶し、自身の攻撃として用いる。
先ほどあの
「……で、どうするよ? カイトさん。なんか手はあるか?」
「何も無いから、最初に撤退を促したんだろうが」
ソウヘイの冗談めいた発言に、カイトも呆れながら答える。
「………さっきの【魔法】に、もっと魔力を流すのは?」
今度はカイトの腕の中に居るティアが聞いてくる。
そう言えば、ずっと抱きっぱなしだったな。あまりにも抱き心地が良くて……は、ホントの事だから言わずに 忘れていた という建前にしておこう。
「いや、そもそも俺は攻撃特化じゃないんだ。さっきの風だってあれ以上の威力は想描が難しい」
ティアから腕を離しながら、カイトは正直に話す。
「あの銀狼の【魔法】ならどうにかなるが、攻撃力に欠けるんだよなぁ」
そう、カイトなら先程の
「だったら早く、その眼帯を外せよ」
「だから、【魔法】を防いだ所で攻撃力が無いだろ」
「マーシャにぶん殴って貰えばいいだろう?」
「……速度が圧倒的に負けてんだろ」
「だったら、俺が斬り刻むとか? まぁ無理だけど」
「無理なら言うなよ」
カイトとソウヘイが、この難敵相手にどうするべきか考えていると
「――なら、俺が焼き尽くす」
いつの間にか近くに来ていた、コウキが無表情で発言する。
「そんな事出来んのか?」
「……詠唱の時間があれば、最大火力を打つける」
「なるほど、自信はある訳だ」
通常であれば即撤退が必要な場面であるが、もう逃してはくれないだろう。残された選択肢は、今も目の前に悠然と立っているあの
「よし! 信じるぜ、コウキ! 時間は俺が何とかしてやる」
そう言ってカイトは、クラスメイト達が未だ伏せたままの状況で1人立ち上がるのだった。
―――その右目を覆っていた眼帯を外して。
「何してんの、カイト! 1人でなんて無茶よっ!」
それを見たマーシャが、カイトを止めるべく声を上げる。しかし、カイトは歩むを進めて行く。
「【水よ】」
カイトの詠唱により、何もない虚空から水流が出現し
「【光よ】」
すぐ側まで近付いて来た
「―――――ッ!?」
目眩しを直で喰らった
「【草木よ】」
そして
「【空気よ】」
カイトの周りに空気の渦が巻き起こり、目に見えない空気の矢が幾つも生み出される。そしてその矢は、真っ直ぐに
「―――――ッ!?!?」
まだ視力が回復していないのか、
「ありゃ〜、実際に戦い慣れていたのは、カイトっちだけだったのか」
「す、凄い……っ!」
「なんて落ち着きよう、恐怖をモノともしない胆力故か?」
「あんなに短い詠唱で、あそこまで威力のある【魔法】が使えるなんて」
「うはぁー、ありゃ手慣れてるなぁ〜」
チロルとエッダ、リゼットにアシス、ユレメまでがカイトの立ち回りに感嘆の声を漏らす。
そしてチロルの言う通り、カイトを除くクラスメイト達は――戦闘に手慣れているとは、言い難い部分が多々あった。
リゼットは稽古なんかはやっていそうだが、大槍の扱いがまだ雑である。慣れているなら、
またエッダや他のクラスメイトにも言える事だが、予想外の出来事に慌て過ぎ、戦闘時に落ち着いて対処が出来ていない。あれじゃ、この森では命が幾つあっても足りない。
(……この森じゃ常に、冷静さが求められる)
だからこそカイトは、目前の的に落ち着いて対処する。
「【アオォォォォォオオオンッッ!!!】」
ようやく視力が回復したらしい
「―――【
カイトの右目――その
「―――――ッ!?」
これにはさすがの
何故なら、自分の切り札がこうも簡単に消されてしまったのだから。そして
「―――――ッッッ!?!?!?」
突如、
「………そんな、無詠唱での【魔法】は存在しないのにっ」
この現象には、普段声の小さいティアも驚いたのか声が大きくなる。
「詠唱を必要としない【魔法】は、いくつか存在するんだよ。カイトのはその1つ、もっとも代表的なモノさ」
ティアの疑問には、近くに居たソウヘイが答える。
(…だが、この 力 じゃ
カイトの予想通り、火傷一つ負っていない
「そ、そんな! 確かに焔で呑み込んだのに! 全くの無傷なんて!」
「あれだけの火力で傷を負わぬとは、敵の防御力は如何程か?」
エッダとリゼットが、驚きの表情を隠せずに声を上げる。それに今度はマーシャが答える。
「カイトのあの焔は――【魔法】なんかには強いけど、生物や物質なんかには効果が無いのよ」
(……だからこそこの焔は、異能灼きの焔と呼ばれる。生物なんかには、 ちょっと暖かい蒼い光 くらいにしか感じないらしい。……サーリンからの、受け入りだけどな)
カイトはもう一度その鮮やかな輝きを放ち、薄っすらと幾何学的な模様が覗く
しかしそれは、追撃を行う為ではない。
―――
「…【
今までの間、ずっと詠唱を行っていたコウキが【魔法】を発動させる。
その瞬間、
そして、今度は―――跡形もなく燃え尽きるのだった。
Next Story Coming Soon!!!
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