第6話 魔物に出会った少年

「「―――――キュイッ!!」」


 薬草採取を行っていると、近くの草むらから2匹の 身銅色のウサギ が飛び出して来た。


(銅色兎カッパーラビットか、あの程度なら慌てるまでも……)


「おや? やはり森には魔物モンスターが現れると聞いていたが、どうやら本当のようだ」


 そう言葉にしたのは、瑠璃色ラピスラズリの長髪を側方結びサイドテールにした女子生徒――リゼットである。

 リゼットは自身の長髪に着けていた 髪留め を外すと、落ち着いてを始めた。


「【ルーインの名を持つ者が、汝の姿を思い出す。真の姿を表し、願いに応えよ瑠璃の槍ラピスランス!】」


 何処となくて槍の形をしていたリゼットの髪留めは、詠唱により 真の姿 に変化する。

 それはリゼットの髪色と同じ瑠璃色ラピスラズリの刃色を持つ、2m近くの大槍。


「【ルーインの名を持つ者は、獣より速く地を翔ける】」


 その言葉通り、リゼットは風のように加速する。


 これは【身体強化魔法】の1つである、【速度強化の魔法】だろう。

 そのまま、銅色兎カッパーラビットに大槍を振るった。


「―――キュイ!」


 リゼットの大槍が、1匹の銅色兎カッパーラビットを斬り裂く。

 だがもう1匹は、大槍を避けてリゼットに迫る。それをリゼットは、間一髪で回避する。


「【大地よ、ボクの声が聞こえるなら壁を造れ!】」


 その間に今度は、黒茶色コーヒーブラウンの瞳を持つ女子生徒――エッダが詠唱を行う。恐らく、【防御系の魔法】か?

 するとリゼットと銅色兎カッパーラビットの間の大地が盛り上がり、見上げる程の高さの壁を造った。


「【私は見た。一面に広がる氷の世界を】」


 授業が始まってから一言も喋っていなかった女子生徒――ティアが、その鈴音のような声で【魔法】の詠唱を行う。


 刹那、


 先程まで銅色兎カッパーラビットが居た箇所を含め、辺り一面に氷の山が出現していたのだ。


「………なんて、だよ」



 ―――【魔法】とは、その者がである。


 魔力を持つ者が頭の中で想像し描いた……想描そうくしたモノが、詠唱によって具現化するのだ。


 つまり詠唱によって、想描したモノに魔力が流れ【魔法】が発動する。

 そのため【魔法】には詠唱が必要不可欠であり、無詠唱などは。……例外はあるが、


 そして想描したモノがより鮮明であったり、使用者の魔力が多かったりすれば、詠唱は短くて済む。

 それと詠唱には 決まり文句 などはない。その者が想描しやすい言葉であれば何でもいいのだ。


 まぁ簡単に言えば、【魔法】とは想像や願い・記憶や知識、経験なんかを必要とするモノ。

―――詠唱は 魔力を流す言霊 となる。



(…午前中の授業で、言ってたことだけどな)


 カイトが改めて思い出していると、草むらから新しい魔物モンスターが現れた。

 今度も全身銅色であり犬の見た目を持つ、銅色犬カッパードッグだ。

――数は、3匹。


「【私は信じる! この拳は岩をも砕く拳だとッ!」


 1番最初に動いたのは、一房結びポニーテールにしてある桃花色ピーチブロッサムの髪を揺す女子生徒――マーシャ。

 大きく拳を振りかぶると、1匹の銅色犬カッパードッグを殴り飛ばす。


「【双剣よ! 敵を切り裂けッ!】」


 続く2匹目を、背中に下げていた双剣を抜いた男子生徒――ソウヘイが、二刀両断した。

 しかし最後の銅色犬カッパードッグは反撃に転じ、その爪や牙でソウヘイに襲い掛かる。


「おっととと!」


 ソウヘイは双剣で銅色犬カッパードッグの牙を弾いたり、身体を動かすことで爪を避ける。


「【炎よ、焼き尽くせ】」


 片手を銅色犬カッパードッグに向けながら口を開いたのは、こんな状況でもほとんど無表情な男子生徒――コウキだ。


「―――――っ!!!」


 突如現れた炎に飲み込まれ、銅色犬カッパードッグは激しく吠える。しかし、炎は消える事なく銅色犬カッパードッグを焼き尽くした。


「大丈夫か、ソウヘイ?」

「俺は何ともねぇーけど、凄い【火炎系魔法】だな。けっこう驚いたぜ」


 肩で息をするソウヘイにカイトが声を掛けると、ソウヘイはコウキに目を向け口にする。


「……炎は、よく知ってる」


 コウキはそれだけ言うと、挙げていた片手を降ろす。


「ソウヘイさん、少し動かないで下さいね」


 その明緑色ライムの瞳で、ソウヘイを見る女子生徒――アシスが、両手をソウヘイに向ける。


「【私は願います。この者の疲れが癒えることを】」


 するとソウヘイの体が一瞬、アシスの髪色と同じ翡翠色ジェードグリーンに包まれた。


「あれ、何か疲れが無くなったような……」

「私は【回復魔法】が得意なので、お役に立てましたか?」

「なるほど、通りで身体が楽になった訳だ。ありがとな、ロステワードさん!」

「ふふ、それは良かったです」


 ソウヘイが肩を回しながら、嬉しそうにお礼を言う。それを聞いて、アシスも表情に笑みを浮かべた。


「あぁ、和んでるとこ悪いが……そろそろ移動した方がいい。――此処は 危険 だ」


 それぞれ先程の戦闘の感想を述べ合っているクラスメイト達に、カイトが声を掛ける。

 これだけ【魔法】を連発したんだ。次は恐らく、銅種カッパーではない 大物 が来る―――


「ねぇ、何か近付いて来てるよ? たぶん、さっきのより大きいのが」


 これまた授業が始まってから、一度も口を開いていなかった獣人種アニマルティの女子生徒――ユレメが、自身の犬耳を動かしながら発言する。


「大丈夫っしょ! みんな戦い慣れてるみたいだし、さっきみたいにパパッと倒せるって!」


 そうお気楽そうに口にするのは、カイトと同じ先程の戦闘で何もしていない男子生徒――チロルである。


「うーん……でもこの 足音 は、さっきのと比べて何か違うんだよなぁ〜」


 だが、その発言に異を唱えたのは目を瞑ったまま、犬耳をピクピクと動かすユレメ。


「ユレメの言う通りだ、次のは俺たちには。速く逃げた方がいい」


 カイトは ユレメの動物的直感? を信じている訳ではないが、クラスメイトに避難を促す。


「平気ですよ、またボクたちで返り討ちにしてあげますから!」

「そうだな、これだけの戦力が居れば心配はないだろう」


 カイトの発言が 弱音 に聞こえたのか、エッダとリゼットが強気な発言で答えた。

 ちなみに、リゼットも迷いの森に入るのは今回が初めてらしい。さっき、マーシャと2人でしていた会話で知った。


(だからこそ、このままじゃ危険なんだ)


「さっきのは魔物モンスターが弱かっただけだ。次のはもっと……」


 カイトがクラスメイトに忠告していると、


「――そんな事を言いながら、貴方は先程の戦闘で何もしていないじゃないですか」

「確かに私は若輩者だが、そこまで弱くはないと自負している。カイトと言ったな、少々弱気が過ぎるのではないか?」


 カイトの忠告を無視するように、エッダとリゼットが反論する。


「ちょ、ちょっと! カイトはそんなつもりで言ったんじゃないのよ!」

「そ、そうだって! カイトの奴は、何も出来なかったんじゃなくて!」


 その言葉を聞いてカイトの顔馴染みであるマーシャとソウヘイが、急いでフォローを入れた―――しかし、当のカイト本人は、


(マズイな、ホントに何も知らないのか? このままだと怪我じゃ済まない、下手を打てば……)


 クラスメイト達の言葉なんか聞いておらず、この先起こるかもしれない最悪の状況に頭を悩ませていた。


「 ――っ!? 嘘!? 急に速くなったよ!」


 目を閉じていたユレメが、驚きの声と共に目を開ける。そしてその言葉に続いたのは、鈴音のような声色をしたティアの言葉。


「………銀色狼シルバーウルフ?」


 疑問形で呟いたティアの目の前には、全身の体毛が銀色に覆われた――


 体長3mを超える、巨大なが姿を現していた。






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