第5話 授業を受ける少年

 魔女集会学園に入学して、2日目。


 カイトは自席に着くと、ぼーっと黒板を眺めていた。

 まだ朝礼が始まるまで時間がある。カイトが何気なく自分の右目を覆う眼帯に触れていると……


「よう、カイト! まさか同じクラスになるとはな!」

「あんた、まだそんな眼帯付けてるの? もう外しちゃえばいいのに」


 そんなカイトに声を掛けてくる、2人の生徒が居た。


「おう、ソウヘイ。あと マーシャ も……久しぶりだな」


 ―――その2人とは、ソウヘイとマーシャ。

 2人ともカイトとは、昔からの顔馴染みである。まだ互いに拾われたばかりの頃、魔女集会で出会った仲だ。

 そして2人は、昨日配布された学園指定の制服を身に着けている。……もちろん、カイトもだが。


 魔女集会学園の制服は、帝国の学園で主流に用いられている〈ブレザー〉と呼ばれる物を流用している。男女共に黒を基調とした製りとなっており、左胸ポケット部分には学園の校章が付いている。

 因みに校章にはとんがり帽子を被り、ローブを身に纏う魔女の絵が描かれている。これは、魔女集会時の正装を参考にしているらしい。


「俺も将来は国に残って、静かに暮らそうと思ってな。お前らは主人の手伝いか?」

「まぁな! これでも主人の魚屋はけっこう繁盛してるんだぜ!」

「私もそのつもりよ。卒業したら、道場を手伝う予定」


 ソウヘイとマーシャも、しっかりと自分の将来を決めているらしい。カイトが感心していると……ガラガラっと、教室の横引き扉が開く音がする。


「じゃあ朝礼を―――面倒なので、授業を始める」


 教卓の前まで来ると大きな欠伸をし、担任教師のグランが生徒達を見てそう口にする。


(…随分といい加減な先生なんだな、この人)


 まだ髪に寝癖の残った灰黒色アッシュブラックの頭を掻きつつ、グランは授業を始めた。




 この学園での授業は、比較的簡単な物だ。

 読み書きやお金の計算は既に学んでいる者も多いため、今回は省略したらしい(過去はあったとか)。まずは校則とこの国の法律・規則の確認……【魔法】についての復習である。

 また、他国の常識や法律なんかも習う。どうやら授業の一環で、他国に行ってみる事もあるそうだ。


「午前の授業はこれで終わる。午後からは 薬草採取 を実際に行うので、昼食を摂ったら運動服に着替えて広場に集まれ」


 早口で生徒達に伝えると、グランは教室から出て行く。残された生徒達は、とりあえずグランの言う通り昼食を摂り始めた。


「お、カイト! それ美味そうだな、何の肉?」

「あぁ、今朝狩って来た野兎の肉だよ。味付けは単純だけどな」


 認識としては、昼休みの時間。この教室内ではだいたいが、知り合い同士での集まり合いとなっていた。

 例に漏れず、カイトもソウヘイと2人で昼食を楽しんでいると……


「そこのお2人さん? 俺っちも一緒していいっすか?」


 蜜柑色オレンジ頭の帝国風に言う、如何にも チャラ男 みたいな生徒が近付いて来た。


「名前は確か……チロル、だっけ?」

「そうそう、チロル! いやぁ〜1人飯は寂しくてさぁ〜。ほらほら、もう1人の男子も連れて来たよーん!」

「……………」


 あからさまに面倒そうな顔をした、黒髪に緋色スカーレットのメッシュが入った男子生徒―――コウキも一緒である。恐らく、ほぼ無理やり連れて来られたのだろう。


「俺は別にいいけど、カイトはどうよ?」

「俺も気にしないから、別にいいぜ」


 ソウヘイとカイトが互いに頷き合う。


「おぉ! あんがとさん!」

「……………すまん」


 その言葉を聞いてチロルは嬉しそうに、自分の席を持って来るとそれに腰掛ける。コウキも小さく頭を下げると同様にして席に着いた。


 それから男子4人は、意外にも会話に花を咲かせたのはここだけの話……




「午後の授業は 薬草採取 の実技だ。学園の敷地内から出れば、直ぐに迷いの森の内部に入れる。そこから回復薬の原料となる〈ヒルクレ草〉や、【儀式魔法】の材料となる〈マジクレ草〉などを採取して来い。……尚、森内部での出来事には自分たちで対処するように」


 体育服へと着替えてから広場に集まった生徒達に、グランは開口一言目でそう告げる。


「この実技は 個人 ではなく 集団 で行うようにしろ。自分勝手な行動を取れば、全員が不合格になると思え」


 生徒全員を見回しながら、グランが注意事項? を述べる。


「それと武器や【魔法】の使用は、各自の判断で許可する」


(……? 武器や【魔法】の私的使用は校則で禁止する程なのに、薬草採取なんかで許可するのか?)


 確かに迷いの森は安全とは言い難い場所だが、地の利があれば危険という程でもない。あとは、森の獣達を刺激しなければいいだけだ。


(まさか森に入るのが、初めての奴でも居るのか?)


 迷いの森に囲まれたこのマドニバルで、迷いの森に入った事がないなんて有り得ないだろう。


。説明は以上―――始めろ」


 その言葉にカイトは違和感を覚えたが、口にはせずクラスメイトとともに森へと動き出すのだった。




「……ソウヘイ、担任教師の あの発言 どう思う?」

「うーん、何かあるのは間違いなさそうだけどなぁ」

「薬草採りに行くだけで、団体行動をする必要があるのか?」

「確かに効率悪いよな、個人で動いた方がいっぱい採れそうだし」


 グランの発言に違和感を感じてから、カイトとソウヘイはクラスの列の1番後ろを歩きながら会話する。


「だいたい、採った量が関係ないってのも可笑しいんだよな。それじゃ、何の為の授業なんだよ」

「そりゃあれだろ、迷いの森で安全に行動出来るか試してるんじゃないか?」

「あのなぁ此処迷いの森は、俺たちにとって自分家の庭みたいなもんだぜ? 庭で怪我するなんて、それこそ有り得ないだろ」


 迷いの森は、カイトが幼い頃から遊び場として過ごすような場所だ。危険はあれど、慣れている。


 ……だからこそ、カイトはクラスメイト達の発言を聞いて驚愕する。


「あ、在ったよ――〈ヒルクレ草〉! それにこんなに沢山!」

「どうやら此処は、〈ヒルクレ草〉の群生地みたいですね」

「さっそく摂って行こうよ、ボクはこの辺りを……」

「エッダさん、その辺りはまだ成長しきっていないので彼方のほうが良いですよ」

「え? そうなんだ、アシスはよく知ってるね!」

「はい、実家が薬屋を営んでいるので〈ヒルクレ草〉には縁があるのです」


 どうやらエッダとアシスが、〈ヒルクレ草〉を見つけたようだ。

 ……問題は、次の言葉。


「ボク、〈ヒルクレ草〉はから助かったよ」

「いえ……私もお店で並んでいる物しか見たことないので、実際に


(……………………は?)


「アシスは、森に入るの初めてなの?」

「はい、初めてなのでドキドキします」

「じゃあ、ボクと一緒だね!」


(………おいおいおいおい、嘘だろ!?)


 森に入ったことがないって、今まで何処で過ごして来たんだよ! 国が森に囲まれてるんだから、何処に住んでようが近くに森が在っただろ!


「あぁ、そういう事か……」


 ソウヘイが片手で頭を押さえながら、小さく呟く。


「そういう事って、どういう事だよ?」


 隣に居るカイトが尋ねると、


「つまり、この団体行動は―――迷子を出さない為ってことさ」



「………マジかよ」


 いきなりの予想外の出来事に、カイトは頭を悩ませる。

 しかし、この先の展開はある程度予想が出来ていた。


 何故ならこの森は、無知な者が入れば命に関わるほど とても危険な場所 なのだ。


 それはカイトが、1番よく知っているのだから―――






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