「あい」のない話

 今日は偶然、早朝に目が覚めたので30分ほど自室で勉強してからリビングに向かう。テーブルに着くと両親が「おはよう」と声をかけてくれる。それに返事をしてから席に着き、卓上の母が作ってくれた朝食を食べる。今日のメニューは洋食派の母にしては珍しく和食だった。一口食べて私も母のように料理が上手だったらと思う。そして不器用な自分を恨む。もし私が器用だったら「彼」に私の手料理を食べさせられるのに。朝食を食べ終わり、今日も朝食を作ってくれた母に「御馳走様」と感謝を述べて自室に戻る。そして、セーラー服に着替えて母の作ってくれたお弁当を持って学校に向かう。

 私の通う学校は自宅よりも高所に建てられてるけれども、距離は電車で二駅分なので母からは節約のため徒歩を強く勧められてる。三日間に及ぶ交渉の末、雨天時は電車が使えるようになった。徒歩だと帰りはかなり楽だけど登校時はかなりばてる。もう慣れたが、入学したての頃は学校に着くとすぐさま崩れ落ちることも無くはなかった。自宅を出て三つ目の交差点で信号待ちをする級友の「彼」を見つけた。駆け寄ると「彼」も私を見つけてくれたらしく、満面の笑みを向けてくれた。「彼」と登校時間が重なるなんて、今日はかなりラッキーなようだ。だから今日こそ「彼」に告白すると決めた。


「おはよう」

「彼」が掛けてくれる言葉が嬉しくてうっかり緩みそうになる口元をキッと結ぶ。合流後は「彼」と昨日読んだ本の感想など、お喋りしながら登校する。道中、「彼」が余所を向く瞬間を見計らって「彼」のリュックに紙切れを投入する。これで仕込みは終わった。仕掛けが作動する放課後が楽しみだ。ちなみに紙には

 放課後になった。私は荷物をまとめ挌技場裏に向かう。「彼」は既に到着し自分を呼び出した人を待ってた。「彼」の姿を見た途端我慢できなくなった私は「彼」のもとへ走って叫んだ。

「好きです!!」

「彼」は少し驚いて私を見たが、発言者が私だとわかると笑顔になって応えた。

「僕も君のことが好きです。よろしく頼みます」

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○○のある話、ない話 馬瀬暗紅 @umazeankou

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