ラルワノーマ

2010年代にカナダのアルバータ州で奇妙な自殺が相次いで起こりました。前日まで悩み事があるように見えなかった人々が、飛び降りや首吊りなど様々な形で自ら死を遂げたのです。


この事件が不気味なのは、自殺者の多くが数ヶ月前に同じ内容をネット掲示板やSNSに投稿していたことです。それはパソコンを使っていると突然画面が真っ暗になって、仮面を付けた人物の画像が映ったというものでした。中にはテレビやスマートフォンの画面に現れたという投稿もありました。


この「見ると死ぬ呪いの画像」は多くのネットユーザー達を震撼させました。パソコンを使う時には画像が現れないかとみんなヒヤヒヤしていいたそうです。


仮面の人物はエチオピアの呪術師であるとか、ネットでの誹謗に遭い自殺した少年であるとか、様々な噂が飛び交いました。人に感染するコンピューターウィルスがあるなどの荒唐無稽な話も流れました。証言を元にした「偽の」仮面の人物の画像を表示させるページを作成し、イタズラを行う者も現れました。


そんな中、あるネットユーザーが指摘したのは、仮面の人物に関する投稿は全て画像を閲覧した当日には行われていないということでした。全ての投稿が、数週間~数ヶ月前にパソコンを使っていると画像が現れたという形の証言だったのです。


自殺者の遺体を解剖した結果、大脳皮質に悪性の腫瘍が出来ていたことが判明しました。大脳皮質というのは、短期記憶を司る海馬から記憶を受け取り、長期記憶として貯蔵する器官です。この腫瘍が脳の記憶に干渉し、仮面の人物の画像を見たという記憶を植え付けた可能性があるというわけです。


腫瘍にはオレキシンという物質の分泌量を過剰にする作用があることも判明しました。このオレキシンという物質は恐怖や不安といった感情と関係があるとされています。オレキシンの過剰分泌により、恐怖のイメージと結び付いた虚偽記憶が初期症状として現れ、やがて腫瘍が肥大化すると自殺衝動に変わるのです。


腫瘍はウィルス性のものであり、空気感染が起こるものであったためアルバータ州で集中的に自殺が発生したことも説明が付きました。腫瘍が原因で仮面の人物のような共通のイメージが伴うのかと思う方も居るかもしれませんが、睡眠麻痺(金縛り)になった時に見る幻覚が幽霊という形で共通していることや、ピエロ恐怖症や集合体恐怖症があるように人間の恐怖心と結び付くイメージには一定の傾向があることを踏まえると、あり得ない話ではないかもしれません。


仮面の人物の画像と腫瘍の関係についての真相は定かではありませんが、この腫瘍にはラテン語で仮面を表す″larva"から取って「ラルワノーマ」という名前が付けられました。


皆さんも、仮面に関する妙な記憶があると感じたら気を付けた方が良いかもしれません。そう言えば、日本では夜中に何も無いところに能面が浮かんでいたと言い張る女性の脳からラルワノーマが見つかった事例があったんでしたっけ。

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