第3話無くしてないもの
「来ましたよ。まさか、あのお爺さんが……」
「ええ、葉月さん。ちょっと黙っていてくださいね」
葉月の話の途中で、ゆっくりと扉が開く。しばらくして入ってきた老人が、そのくたびれた姿を見せていた。
重い足取りは、何かを背負っているかのようであったが、うまく体が動かせていないようにも思われた。
「お久しぶりですね、お爺さん。失った半分がないと動きづらいですよね」
「葉月さん!?」
唐突に老人に話しかける葉月。その言葉に反応したのか、老人は歩みを止めていた。
「なるほど。さすが、睦月せんぱい! すごいです! 私、また感動しちゃいました!」
あっけらかんとした様子に、老人は目を白黒させて葉月を見つめる。その様子を見て、頭を抱えた睦月だったが、もはや腹をくくったのか、堂々とした声を出していた。
「失ったもの。それはポチが掘りだした大判小判。臼になったポチで作った餅が変化した小判。最後に殿さまからもらった褒美の数々。で間違いありませんね。お爺さん」
睦月の言葉に頷く老人。
その様子に何か感じるものがあったのだろう。老人は期待の眼差しを向けていた。
「単刀直入に言います。それは見つかりません」
「!? ――今、何と? 何と言ったのじゃ?」
「先ほど申し上げた三点は、すでに使われているので失せものではなくなっております。したがって、見つかることはございません」
「いや! そんなことはないはずじゃ! あるわけない! 儂の婆さんが、そんなことをするはずがない!」
「そうですね。ですので、来ていただきました。僕が話すよりもいいでしょうから」
指を鳴らした睦月の視線の先で、瞬時に闇が出現する。
――次の瞬間、その闇は正直爺さんを包み込む。
だが、それも一瞬の出来事だった。
その後すぐ、闇はきれいに消えていた。
そこに老夫婦の姿を残して――。
「婆さん…………。儂は……。ワシは……」
「いいんですよ、お爺さん。さあ、二人とも。一緒に帰りましょうね」
抱き合う姿を優しく光が包み込む。その中で、お婆さんが小さく頭を下げていた。
やがて光は小さくまとまり消えていく。
まるで、何事もなかったかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます