第5話 ジミー・ハンセン
一方、ルクスの元に向かったクリスは、マネージャーのダンマーシーを連れて、レコーディングスタジオに着いた。
ゴールドディスクが何枚も飾られているその部屋には、クリスのバンドの『シャイニングレイ』よりも、先輩のヘヴィメタルバンド『サベージパンプキン』がいた。
そして、スタジオにはルクスが居た。
ルクスは、ドラムの『アルベルト・ケネス』に激しく指示を出していた。
クリスは、そのバンドのレコーディングの様子をしばらく見て居た。
その様子は、皆仲が良いが、それぞれが個性をを持ったバンドだということが手に取るようにわかる。
ヴォーカルの、『マルセルキスク』は、自分で発声練習をして居るし、リードギターの『ジミーハンセン』は、ギターの指の動きを練習していた。
ベースの『チャーリーリッテル』は、ケネスのレコーディング風景を眺めて居て、リズムギターの『ウォルターバレット』は、ジミーにちょっかいを出していた。
すると、ジミーがこちらを見た。
彼は暫くクリスと目が合っていたが、やがて、彼の元へと駆け寄ってきた。
「君は・・・シャイニングレイの、クリス・リベンジだね。いつもTVで見てるよ。」
「先輩にそう言われて嬉しいです。あの・・・ルクスGは・・・。」
「ルクスGに用?ダメダメ。今はドラムのレコーディングに夢中だから。シャイニングレイはルクスGは初めてだったよね?」
ジミーがクリスの隣のテーブルに来て、クリーム色の椅子に座った。
「ああなっちゃうと周りが見えなくなるからね。ルクスGは。結構何回もルクスとやっているけど、気難しい相手だよ。彼は。素晴らしい作品を作り出そうと必死になるから、だから俺達にも厳しい。だから、俺達も、ぎりぎりのところまで昇ろうと努力する。レコーディングって、それぞれの個性がぶつかって出来る結晶ものかもね。」
「成程・・・。」
クリスはそう言ったまま、黙ってしまった。
ジミーも黙った。
クリスは、サベージパンプキンがうらやましいと思った。
それに比べてうちのバンドは・・・。
新曲のコピーを信頼していたバンド仲間に取られて、もしかしたら、ライバル会社に高い値段で売られるかもしれない・・・。
クリスは、今まで味わったことのない屈辱を味わっていた。
そうこうしているうちに、「1時間休憩!」という、レコーディングスタッフの声が聞こえた。
クリスは、スッと決心したように立ち上がると、ルクスの元に歩いて行こうとした。
そこへジミーが、「ちょっと待って」と、彼を呼び止めた
ジミーは、さらさら・・・と持っていたメモに何かを書くと、クリスにそれを渡した。
「俺のラインID。何かあったら遠慮なく連絡してきて。」
「えっ!?どうしてですか?」
「ルクスは事実しか言わない奴だから、腹立つこともあるだろう?お見受けしたところ、かなり辛そうな悩みを抱えて居るみたいだからさ。俺でよかったら力になるよ。」
ジミーの思いがけない言葉に、クリスは感謝した。
「ありがとうございます。ジミーハンセン。でも、何故見ず知らずの俺なんかの為に・・・?」
ジミーはクリスの言葉に暫く考え込んでいたが、やがて一言言った。
「ある子のおかげかなあ・・・?俺がこんな風になれたのも・・・。」
1時間の休憩の間に、ルクスがジミーの元に来た。
「まったくよくないよね。ケネスは。もうちょっとドラム何とかならないのかい?」
「ルクス。そんな事言わないでよ。あいつははいったばっかりなんだからさあ・・・。」
ジミーが答える。
それを見たクリスはびっくりした。
ルクスと同等に話している。
これがプロの世界なのか?
普段笑わないルクスが、ジミーとは笑っている。
これが長年やってきたバンドと、ぽっと出バンドとの差なのか。
心の中で、クリスは思った。
ひとしきり、ジミーと話したルクスは、クリスの方を見ると、冷静に話し始めた。
「新曲のコピーが盗まれたそうだね。クリス。」
「ああ・・・。ジャンは多分バンドにはもう戻らないつもりだ。あれがライバル会社に渡ったら…と思うと・・・。」
「でも、まだ本物の譜面は取られていないんだろう?ジャンの居所は?」
電話にも出ない。さっき行きがけに、ジャンのマンションにも寄ってきたが居なかった。」
クリスは頭を抱えた。
ルクスGが、ジミーに向かって話す。
「おたくのユナイテッドレコードの社長さんて、そんなに悪いのかい?」
「あんまりいい噂は聞かないな。1,2度話したけど、ジャーマンレコードの社長と似た人物だね。」
「ふーん・・・。」
ルクスが納得する。
すると、ジミーが突拍子もないことを話し始めた。
「考えたんだけど・・・どうだろう?その譜面を俺に預けるというのは?」
「えっ!?」
ルクスとクリスが同時に言った。
「詳しい話は分からないけど、そのジャンという奴は、本物の新曲の譜面を全力で取りに来るだろう。もし、ジャンが裏切ったとしたらね。そこで、譜面を盗むために一番最初に来るのは・・・。」
ピシッとクリスの方を指さすジミー。
「クリス・リベンジの家に行くはずだ。何故なら、一番譜面を持って居そうな人物だからさ。クリスがダメならルクス。あんたの所にも行くはずだ。」
ルクスGとクリスは顔を見合わせた。
そうなると、ジャンは我々2人を襲う可能性がある?
「その根拠は・・・?」
ルクスがジミーに聞いた。
「新曲の譜面は金になる。ましてやまだ発売前の譜面だ。俺らの社長が先に別のバンドに似たような曲を作らせて売り出されたら?アトランティックは何も言えない。」
「私たちを襲って譜面を奪ったことに対しては?警察が動くぞ・・・?」
ルクスが、またジミーに質問する。
「ユナイテッドレコードのカールは、かなりの頭の切れる男だ。ジャンがルクスとクリスを万が一黙らせられたら・・・あとはもみ消すだけさ。」
ルクスが冷や汗をかき始める。
「黙らせるということは・・・?もしかして・・・。」
ジミーは黙って首に人差し指を持って行きそれを横にし、そのまま動かした。
ルクスとクリスが恐ろしい形相になった。
「では、君の話ではジャンは我々2人を殺すと!?」
クリスが激しい口調で突き詰めた。
「その可能性が無きにしも非ずという話さ。だから全然考え付かない第3者にあずかっておいた方が良いんじゃないかと、そう思ったのさ。」
ジミーが冷静な顔立ちで話す。
一理ある・・・とクリスは思った。
しかしジミーはユナイテッドの人間だ。
そんな、人間を信用して譜面を渡してしまって、良いものなのだろうか?
「ジミー。あんたを信用していないわけじゃない。しかし、あんたはユナイテッドの傘下で働いている。あんたが譜面をカールの元に持って行く可能性があるのも事実だ。」
クリスが話す。
「まっ・・・そうだろうね・・・。」
ジミーが話した。そして
「だから取引と行こうじゃないか?俺たちのバンドをアトランティックに移籍させてくれ。」
こう言ったのだ。
ユナイテッドレコードの社長室はやけに綺麗だった。
多くのゴールドディスクや、プラチナディスクがこれ見よがしに飾られており、白い壁紙に、それらの物は映えていた。
ジャンはポールと一緒に、社長室に来ていた。
今までジャンは、こんな形式ばった所に来ることは無かった。
その為、少し緊張していた。
それをゆっくりと優しく微笑んで促すポール。
その笑顔だけで、ジャンは自分は何でも出来るような気がしてならなかった。
ポール。あなたが居ればいい。
俺は、クリスをジェイニーを過去を捨てる!
ユナイテッドレコードの社長『カール・ブロンソン』は2人を満面の笑顔で出迎えてくれた。
そして、カールの隣には女性が居た。
「私が社長のカール・ブロンソンだ。そして、こちらは秘書兼妻のパメラ・ブロンソン。」
その女性は、カールの自己紹介に続き、ニッコリと笑い、ゆっくりとコクンとうなづいた。
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