ばななんばななんば~な~な~♪

「お腹すいたー」

「バナナが一本ありますよ」

 シモラーシャの言葉に傍で本を読んでいたジュークが言った。

 とたんに顔を輝かすシモラーシャ。

「食べるっ」

 渡されたバナナはとてもいい香りを発していた。

 綺麗な黄色ではなく、茶色の点々がついていたが、バナナはこれが一番の食べ頃なのだ。

「う~ん、いい匂い~」

 そんな彼女を微笑みながら見ていたジューク。さらにバナナを見て微笑みを深くした。

「まるで豹柄のようですね」

「何が豹柄なんですかあ?」

 そこにやって来たマリー。

 バナナの皮をむき、今まさにバナナにかぶりつこうとしていたシモラーシャを見てぼそっと呟いた。

「僕のバナナを食べてくれればいいのに」

 パクリとバナナにかぶりついたシモラーシャは、はてといった表情で、

「ぬあに? マリーもバナナ持ってたのお?」

 もぐもぐしながら目を輝かせている。

「持ってるならちょーだい。あたし食べるから~」

「えっ? あっ、いや、そーではなくってぇ~……」

「マリーさん、そんな下品な事を言ってはいけませんよ」

「…………」

 マリーはむっとした表情でジュークを睨んだ。

 何か文句あるかといった挑戦的な顔である。

 だが、ジュークも負けてはいなかった───といっても、ジュークは見たところ相変わらずの微笑を浮かべているだけだったが。

 マリーはそんなジュークにさらにむっとした。

「貴方に指図される謂れはないですねえ。バナナのどこが下品なんでしょお?」

「なになになになに? バナナバナナって、持ってるなら早くちょーだいよー。食べる~」

 その場の雰囲気をまったく察してないシモラーシャであった。

 しかし、ジュークは至極普段通りに落ち着いている。

「そうですか。指図しているつもりはなかったのですが」

「してると思いますがねええ」

「それでは、これ以上は何も言いません」

「そうして頂けると僕もありがたいです」

 するとバナナを食べ終わったシモラーシャにジュークが言った。

「シモラーシャさん、マリーさんのバナナもきちんと剥いて差し上げてからお食べくださいね」

 それを聞いたマリーは顔を真っ赤にさせて怒鳴った。

「僕のが剥けてないって言いたいのかっ!!!」

「なになになになに~? むけてないってぇぇ?? 何がぁぁ??」

「☆♂※×♯★!!」

 マリーは何事か叫んだ。

 しかし、あまりの興奮状態に言葉が意味を成してない。

「マリーってばー、何怒ってるの??」

 しかし、ジュークはすでに何処吹く風といった澄ました表情で読みかけの本に目を落としていた。

 あとはただ、マリーの怒声とシモラーシャの屈託のない声、そしてバナナの芳しい香りだけがあたりに漂っていた。

 そんな夏の午後のことだった。

 平和である。(まったくだ)


         初出2003年7月27日

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