スランプライターとJKの遭遇


 僕は今、非常に危ない状態に陥っている。

起きている時間を限界まで拡張し、何度も何度も話の続きを書いたが、どれもこれもリアリティに欠けていて納得できない仕上がりにしかならない。

「ここさえ書ければ後はスラスラ書けるのに…書けるのに!!なんで!なんで書けねーんだ!ふざけんじゃねえバカ野郎!アアアアアアア!!!!」

地団駄を踏んで怒鳴り散らしていると、部屋にメイド兼保護者が来た。

「深夜になんて声を出しているんですか書文くん!ご近所さんに迷惑でしょ!」

「うるさい!近所の迷惑なんて知ったことか!そんなことよりドリンクが切らしてるぞ。を叱るひまがあるならさっさと買ってきやがれモジャ髪ヨーコ!」

「だっ、誰がモジャ髪ですか!あんな飲み物に頼って小説書いても駄作にしかなりませんよ。明日も学校でしょう?さっさと寝なさい!」

「グダグダうるせえ!買ってこいっつったら黙って買ってこいやー!それとも拳で言わねーと分からねーかァァ!?」

羊子に殴りかかったが、一瞬で目の前から消えた。

「うるせーのは君だよ、書文くん」

後ろかッ!

「夜は寝るものだよ、特に君みたいな少年はね」

オレが振り返るよりも早く、羊子はチョークスリーパーをきめてきた。

「っっ離せ!」

「離してもまだ寝ないつもりなんでしょう?羊子さんが寝かしつけてあげるから、無駄な抵抗は止めなさい」

首に回された腕が更にきつく締められ、俺の、意識が、消え……


「やっと眠りましたか。まったく、普段はおとなしくていい子なのに、たまに凶暴になるのには困ったものだわ」

書文くんをベッドに運び、布団をかける。

「さっきの凶暴さが嘘みたいな寝顔ね…おやすみなさい、書文くん」

額にキスをして電気を消してメイドは部屋から消える。




 翌朝、身体のあちこちにある痛みに顔をしかめながらは目覚めた。

「うう、いててて。寝る前に僕はいったいなにをしたんだ?」

下に降りると羊子さんが朝のコーヒーを飲んでいた。

「おはよう、書文くん。…気分はどう?」

「?昨夜はよく眠れたから良好ですけど、出し抜けにどうしたんですか」

「いや、それならいいんだ。それよりいつものやつは出してあるから、顔洗って口ゆすいで食べちゃいなさい。遅刻しちゃうよ」

「はーい」

洗顔と洗口をすませ、変わらぬ美味しさのグラノーラに牛乳をたっぷりかけてボリボリと食べる。牛乳でふやけきる前に口にかきこむことがおいしく食べるコツだ。

「ボリボリ 羊子さん、アルの姿が見えないけど、またへやにひきこもってんの? ボリボリ」

「アルちゃんならまだ寝てますよ。昨夜は筆が乗ったみたいで、さっき部屋を覗いたらペンを握ったまま落ちていたからベッドに運んでそのまま寝かしておきました」

「へぇ、あいつもがんばってるなぁ。僕も頑張らないとなぁ…あそこさえ書ければなぁ…」

「書文くん!そろそろ出ないと遅れちゃうんじゃないの!」

羊子さんの声でハッとした。確かにもう時間だ、考えるのは歩きながらにしよう。

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい、書文くん」

 

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「クソっなんなんだよあいつ!すました顔しやがって!」

向かいの席に座るコンドウが大きい声を出したので、あたしはびっくりして弁当箱を落としてしまった。

「あ~あ~、何してんだよ凛華ちゃん」

「ご、ごめん」

「それにしても、まだ誰もあいつから反応を引き出せないとはな」

ムラタは冷静なように見えるが、足をパタパタ鳴らしている。内心イラついているようだ。

「次は凛華の番だけど、勝算はあんの?」

サワダちゃんがパンを食べながらあたしに問いかける。

あたしはチャンスだと思った。みんなができないことをやってのけたら、さらに一目置かれると考えた。だから

「あっはっはっは、みんなやることがありきたりすぎるよ!変なやつの反応を引き出すんなら、そいつにあった方法じゃないと!」と自信たっぷりに答えた。

「へぇ、随分自身有りげじゃん。あいつに会った方法が凛華にはあるっていうの?」

「もっちろん!まぁ見てなって、明日の朝にはあいつの慌てふためく姿が見れるから!」


 あいつ…頼田はあたしが見る限り、いつも原稿用紙に何かを書いている。逆にそれ以外のことをしているところは全くみたことがない。

今のところ原稿用紙はあいつの高校生活の全てと言えるだろう。それが手元から消えたりでもしたら、さすがに焦りはするだろう。

「反応が見れたらすぐ返すし…大丈夫だよね」

帰りのホームルームが終わり、誰もいなくなった教室で一人ごちる。

 いつも下校時間まで席にいる頼田はなぜか今日はいない。カバンが机のわきに掛かっているので帰ったわけではないらしい。絶好のチャンスだ。

誰も見ていないことを確認し、カバンのジッパーを開けた。

「!? なにこれ!?」

カバンの中身はおびただしい原稿用紙でパンパンになっていた。

「どんだけ書いてんのよ…」

 手に取ってパラパラと原稿用紙の束をめくっていると、後ろから勢いよく教室の戸が開く音がした。

驚いてふりかえると、そこには目を血走らし、深い隈のある顔であたしを見据える頼田がいた。


           「そこでなにをしているんだ…」 

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スランプライターと的になったJK カゲユー @shimotsuru

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