玲間凛華のグループ

 あたしが高校生になってから大体一か月が経った。


 あたしには高校に入学するにあたって、懸念していたことがあった。

 それは人間関係だ。


 あたしの住む市には三つしか高校がない。一つは市立 巳渡里みどり高校。三つの高校の中で一番入学者数が多い。ふつうに勉強していたら入れるくらいのレベルだ。

もう一つは私立 貴位楼きいろう高校。いわゆる御曹司やお嬢様が通うような高校だ。大半がエスカレーター式で上がってきた生徒だけど、中には難関試験を突破した普通の家柄の生徒もいる。

最後の一つが国立 亞河威あかい高校。国が中卒者を減らすために建てた高校で、入学届に名前を書いただけで入れて、出席日数が一桁でも卒業できるというハードルがとても低い高校だ。反面ヤンキー校としてのレベルがとても高く、全国から指折りの不良がこぞって入学してくる。そのため毎日喧嘩が起こり、非常に殺伐としている。

 あたしの家柄はふつうだし、頭にも喧嘩にも自信があるわけでもない。

だからあたしは必然的に巳渡里高校に入学することを選んだ。


 世の中の比率はお金持ちや秀才、不良じゃない人の方が圧倒的に多い。だから、あたしと同じ理由で巳渡里高校を選ぶ人は多い。

そのため巳渡里高校には入学一日目から既にグループができていることが多いと聞いていた。

だからあたしは人間関係を懸念していた。

でもそれは杞憂だった。


 入学初日にあたしは意を決して楽しそうにおしゃべりしているグループに話しかけた。「ねえねえ、あたしも話に混ぜてよ」なんて具合に。

なんてことない顔で話しかけたが、心臓バクバクだった。

「いいよーこっちおいでー」って言われたときはすごく嬉しかった。

 

 そのグループは今まで地味だったあたしにはとても刺激的だった。酒を夜通し飲んでいて頭が痛いー、とか、クラブで踊りまくったー、とか、高校生らしからぬ素行をあたしはカッコいいと感じていた。

あたしもダサいやつと思われたくなかったから、実際はない不良わるい経歴を語り、グループのみんなから一目置かれるようになった。


ある日の朝、みんなが教室でおしゃべりしているとき、教室の戸をガラッと開けて入学式の日にあたしがぶつかった男の子、頼田書文よりたかきふみが入ってきてあたしたちの横を歩いて行った。

「あいつって全く喋んないけど、驚いたらどんな反応するのかな」

声を潜めてムラタ(グループのリーダー的男子)がニヤニヤしながら言う。

何かを察したコンドウ(お調子者男子)が背を向けた頼田にコッソリと近づき、「ワァッ!!」と肩をバシッと叩きながら驚かした。

しかし微塵も驚いた素振りをみせず、そのまま席について原稿用紙を取り出し何かを書き始めた。

「なんだあいつ、ノリわりーな」

「無視してんじゃねーよってかんじだよねー」

「俺けっこう強く叩いたんだぜ?」

「ああも無反応だったら余計に反応みたくなるよな」

「じゃあさ、あいつから反応を引き出す競争しようぜ」

そうして頼田に対するちょっかいが始まってしまった。





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