第6話 永遠に父はそのまま動かない
「お母様の事は旅立ちの準備を整えてお預かりしておきます」
ショートカット女性が頭を下げた。
病院、葬儀、VR、それぞれの関係者。
三社が連携を取り母の旅立ちまでの手続きを行うとのこと。
病院から葬儀場に移動し
10畳ほどの個室。低いベッドの母を囲みながら説明を受けた。
「VRを選択しない自由というのもあります。
ここで故人を囲み旅立ちまで静かに時を過ごす幸せもあります
実際にVRを選択しないご家族様は2割ほどいらっしゃいます」
父は母(の身体)と一緒にいたがった。
「ここで一人にするのか…一人置いて…しかしVRなんて本当に…」
「我々スタッフがここには交代でおります。絶えずお線香を焚きましておそばにおります」
「そっか…お母さんはここに置いていくのか」
「ご本人同士を合わせることはできないのです。
もちろんVRを開始した後、ここへ会いに来ることはできますが…
VRの設定は一旦ご自宅でしていただきますので…」
父は黙って母の手を取ろうとしたが、こぶしを握り締め正座した膝の上にそろえ、じっと固まった。
永遠に父はそのまま動かないのではないかと感じた、動かないことで永遠にこの時間に留まることができるのではないかと思っているかのようだった。
「…ええ…会いに来ることは自由ですし…VRは使わずこの場に居ていただくことも…」
そろそろどちらにするか決めなければならないのだろう。
葬儀社の男の喉が咳払いとも唾を飲み込むとも微妙な音を立てた。
緊張するなあ、嫌な時間だ。と、他人事のように思う。
父のメール着信音が響いて、私は画面をのぞき込んだ。弟からだ。
学校、早退したけど、駅。どこ行けばいい?病院、家?
父はすぐに折り返しその弟が出る半コールの間に決心した。
「今から家に帰るから。おねえも一緒だよ。…ああ、じゃあ同じくらいにつくかな」
いいタイミングでメールが来たなと皆が思って、皆が何となく不謹慎なような気持になって、皆で曖昧に微笑みつつ、皆は腰を浮かした。
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