第4話 ときめく?ときめかない?

 後片付けは男達に任せることにした。

 父と弟が台所に並ぶなんて初めて見たような気がする。

 父の背中、弟の横顔。

 まあいいや。

 私は母と荷物の整理をしなければならない。

 それは女同士の仕事なのだ。


 母の部屋。

 母がいる、母の部屋。

 壁、カレンダー。机の上、ダイレクトメールや雑誌、鉛筆。椅子に、カーディガン。

 急に現実感が希薄になってぼんやりとする。

 いけない。まだ、だめ。


「ほら、一度も着てないのよ?着る?」

 服の整理は意外と大変だった。

 下着や毛玉のついた靴下は紙に包んで捨てたいが、新聞紙は嫌だわ。

 Tシャツは雑巾にしようかしら?

 ときめく?

 ときめかない?

 母は完全完璧に捨てるとなった服も綺麗に畳む。

 いらないものはどんどん入れようと指定のゴミ袋を意気揚々と広げて持ってきた私は人非人か。

 さすがにばつが悪くなり重ねられた衣類の山の陰にカサリと袋を置いた。


 棺に入れるものを決めていく作業はショッピングに似ていた。

 そう多くない母とショッピングをした記憶。

「このネックレス、気に入っていたけどおねえにももう似合うんじゃあなあい?」

「んーちょっと趣味じゃないかな?持っていきなよ」

「一冊くらい画集でもいれようかしら?マリーローランサンとか優しくてきれいな絵だし」

「えー重くない?好きな絵何枚かにしといたら?」

「あ!じゃあいいクリアファイルあるわ!箱根の美術館で買ったやつ」

「…棺にクリアファイル…」


 やることは山ほどあった、

 同時に

 やる事がなくなったらどうしようと終時思っていた。


 ふと影を感じると開けていたドア前に弟が立っていた。

「…ちょっとリビングで休憩したら?」

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