秋にして飽きないふたり
呪いが解けたように夏が急加速で過ぎ去り、とうとう秋深し。
高校もざわつきが止まらない。
「うーー。どうか忘れない脳を!」
「あーもう。誰か代わりに勉強して!」
「うーーー、ワン!」
「ギニャーっ!」
もはや動物園と成り果てたクラスを出てわたしは平穏な中学校の校舎でくつろいでいた。
「あー、
「いいの?
「勉強に関しては死角なし。元々の東京の志望校ならね」
中学の中庭のベンチでアキアカネが飛んでいるのをなんとなく指にとまらせる。
「それよりも小説か、ピアノか、それが問題よ!」
ふたりであいも変わらずこういう小説のネタになりそうな彼氏彼女を演じていると、
「おー、中学に戻りてー」
「啓吾ならいつでも戻れるね」
どういう意味だよ、と梨子にブツブツ言う啓吾。
「でもさー。受験が終わったらみんなバラバラだよね」
「梨子はウチの国立大?」
「うーん。迷ってるところ。地元の学校なら軽四買ってくれるって親は言うんだけどさー」
わたしの問いかけに地方にありがちなケースを例示する梨子。そういえば啓吾はどうするんだっけ?
「俺は嶺紗と同じところに行く」
「うわ」
「恵当、覚悟しとけよ」
「啓吾、○○大学でも?」
「う・・・お?」
「△△大学は?」
「う、あ・う・あ・・・」
梨子のツッコミに目を泳がせる啓吾。
「でも、嶺紗。なんだかんだ言ってこの間の模試の調子なら△△大だって圏内でしょ?」
「うーん。まあ、一応・・・」
「くー、かっけえなー、嶺紗は。恵当、俺も必死にやるさ」
「啓吾くん、僕は心配してないよ」
「なんで?」
「だって、嶺紗は僕の彼女だから」
恵当が一番かっこいいかもね。
「恵当、ほらあれ」
部活終了後、わたしの受験勉強に付き合って図書館で一緒に勉強した後の帰り道、焼き芋の移動販売車を見つけた。いや、見つけるも何も、「石焼〜き芋〜」と触れ回って走っているのだから。
「恵当のご両親はお芋は?」
「大好物」
勉強随行のお礼にとわたしが恵当の家の分も買ってあげた。一応祖母のピアノ教室の手伝いで、バイト代という名目でお小遣いを貰ってるので。
「ただいまー。はい、戦利品」
「あらあら。太るわよー」
「母さんが?」
「嶺紗が」
ほっといて、と言いながらご飯をいただく。
我が家でごはん。
遠方の大学に行ったら、それも無くなるのか。
「嶺紗ちゃん」
「なに? おばあちゃん」
「ピアノはどれ持っていくね?」
「ああ、県外になったら?」
「ほぼ、そうなんだろ?」
「そうだね。いつも使ってる電子ピアノにするよ」
「そりゃそうだわね」
後片付けをして、そしてお風呂に入る。
「うーーーーーーーむ。背骨周りが疲労してるなー」
こんな時のために部活命の恵当おススメ、ストレッチポールを購入してある。お風呂あがりに背骨を乗っけてグデー、と脱力すると疲れの取れ方が違うのだ。
「グデー」
「ほらほらパジャマでこんなところでだらしない」
「あー。母さん、至福ー」
ガチャ、と玄関のドアが開いた。
父親がご帰宅のようだ。
「みんな、ちょっといいかな」
着替えもせず、クールビズのスーツのまま、父親が台所のテーブルにみんなを着席させた。
なんだろ。
「会社を辞める。今月末付で」
え。
「スマン、もう耐え切れん」
え。え。
「引き継ぎに行くのも辛い。有給全部使わせて貰う。明日から再就職活動だ」
ええー!?
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