第3話 クラスメイト

「学のやつ、また告られて、その日のうちに終わったらしいぜ」

昼休み、お弁当を食べていると、小林くんが言った。

「あいかわらず、小嶋の弁当はうまそうだな」


 小林こばやし洋介ようすけくんとは、小学校いらいの知り合いだ。学くんとは気が合うようで、二人は、ずっと仲のいい友達で、私にも、気さくに話しかけてくる。生まれつきのお調子者で、誰とでもすぐに仲良くなれるという、私にとっては、非情にうらやましい特技の持ち主だ。


「学も、少しは自分の味覚がおかしいことに自覚があるみたいで、告られると必ずあの中華料理屋に連れて行くんだよな。味覚が合うかどうか、確かめるために」

「ふーん」

学くんが、いろんな女の子に告白されてると思うと、あまりいい気がしない。


「付き合うんなら食べ物の好みが一致しないと、つらいからな」

「学くんと味覚が合う人なんて、いるのかな?」

「え、お前、いつもあいつと中華食べに行ってるじゃん」


 なに? もしかして、私も学くんと同じ、味おんちだと思われているのか?!

 私は、誤解を解くために、はっきりと言った。


「それは、学くんが、食事は一人で食べるより、誰かと一緒のほうがおいしいって言うから、付き合ってるだけだよ」

「じゃあ、あそこの中華がうまいって思ってるわけじゃ?」

「まずい」

「やっぱり。俺もあそこはまずいから、学に誘われてもいかないんだよ」


 そうか。小林くんにも断られてるのか。なんで、学くんが私を誘うのかわかった。


「あいつの味覚ってどうなってるんだろ。家族は普通だろ?」

「うん、何回か学くんの家でご飯食べたことあるけど、普通においしかった」

「俺も食べたけど、おかしなところはなかったな。まぁ、お前んちのほうが、おいしかったけど」

そう言って、私のお弁当のおかずを食べようとする。


「こらっ!」

私は、小林くんの手をひっぱたいた。

「ケチ」

「お母さんのお弁当は、私のものだ!」

あいかわらず、お母さんのお弁当はおいしい。


「小嶋のお母さんは、美人だし、料理うまいし、俺があと20年早く生まれてたらな

ぁ」

と小林くんが、冗談なのか本気なのか、わからない口調で言った。


 おいおい、そうなってたら、君は私のお父さんだろう。美人、美人と、男は本当に美人が好きだな。


「そんなに美人が好きなら、深海ふかみさんにアタックすればいいじゃない」

と私が言うと、

「さすがに、それはちょっとハードルが高すぎる」

と小林くんが言った。


 深海ふかみ友里ゆり。スラッとしたモデル体型、セミロングのきれいな髪、澄んだ瞳に、吸い付きたくなるような唇。そして、家はお金持ち。

 少女漫画の登場人物か、と突っ込みたくなるようなクラス一の美人だ。もとがいいのに加えてセンスも良い。同じ制服を来ているはずなのに、彼女が着ると全く別物に見える。


「小嶋さんは、いつみても地味よね」

ちょうど話題にしていた深海さんが話しかけてきた。典型的な意地悪キャラだ。


「深海さんみたいに、元が良くないからね」

と言うと、

「元が良くなくても、髪型に気をつけるとか、できることはあるんじゃない」

と挑戦的に絡んでくる。


 深海さんは苦手だ。でも、深海さんが私にイラッとくるのもわかる。深海さんは、学くんが好きなのだ。そして、いつも学くんは、私と一緒にいる。たいしてかわいくもない、かわいくなろうと努力もしない私と。


 正直、学くんは私といるよりも、深海さんといっしょにいた方が、ずっと釣り合う。もし、私が学くんと幼なじみじゃなかったら、きっと、深海さんと付き合っていただろう。


 深海さんは、見かけよりもずっと真面目で、きっと、学くんがあの中華料理に連れて行っても、我慢してあのまずいチャーハンを文句も言わずに食べるに違いない。いや、文句は言うかな。



「ちょっと、話があるんだけど」

 放課後、私は深海さんに呼び出された。これって、体育館の裏に来い、てきなやつか? いや、その文化は20年前には終わっている。


「ねぇ、あなた、秋本くんのこと、本当はどう思っているの?」

いきなり直球が来た。


「ただの幼なじみ」

と私は言った。


「じゃあ、私が告白してもかまわない?」

「別に、私に許可をとらなくても」

「いちおう、筋は通しておこうと思って。それじゃ」

そう言って、深海さん去っていった。


 なんだこれは。やっぱり、深海さんは私のことを、そういう目で見てたんだ。私だって、ただの幼なじみじゃなければって思うけどさ。

 美人は自分に自信があっていいな。って、こういうところが、私のだめなとこなんだけど。


 もうすくバレンタインデーか。深海さんは、気合い入れたチョコを渡すんだろうな。でも、あの味おんちにわかるのかな。って、わからないことを期待している、私は最低だ。


 『筋を通す』か。深海さんが、かっこいいのは、容姿とか生まれとか関係なく、そういことをできるからなんだろう。

 もし、このまま深海さんと学くんが付き合ったら、私は、きっと、いつまでもぐじぐじするだろう。


 私も、やっぱり、一度くらい、ちゃんと筋を通さなきゃ駄目だ。

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