ティータイム
事前説明会は予定通り午前中で終わり、優太はアリスと合流する為に校門へと向かっていた。
「ん?」
すると、校門で3人組が1人を囲んで何やら騒いでるのを目にした。
囲んでいるのはいずれも少年で、私服姿から新入生である事が窺える。
全員が髪を何色かに染めており、耳に大振りのピアスをつけている者もいた。
服装もいくら私服とはいえ、説明会に参加する格好としては疑問が出るセンスのものであり、見た目が平凡な優太にとって一言で言えば、あまりお近付きになりたくないタイプの者達であった。
彼らが囲んでいるのは、どうやら少女らしく、彼女を熱心に口説いてる最中のようだ。
そしてこの時、優太は嫌な予感しかしなかった。
「ねえねえ、君もこの高校に入んの?」
「名前教えてよー。あと、電話番号もさー」
「・・・」
「日本語分かる?ってかその金髪地毛?超イケてんじゃん」
聞こえてきた言葉に、ああ、やっぱりかと優太は小さくため息をつく。
更に、囲む彼らの合間からチラチラと見覚えのあり過ぎる美しい金髪が見え隠れしており、嫌な予感が的中している事にもはや疑いようがなかった。
優太は少女を連れ出す為に囲いに近付く。
彼女の姿が見え、その顔が不機嫌そうに歪んでいるのが分かる。
しかし、その瞳は不安に揺らいでおり、誰かを探すかのように、しきりに周囲を気にしていた。
そしてーー
「あっ!優太!」
優太の存在に気付いた少女は、先程までとは打って変わって、花が咲くような笑顔で優太に声を掛ける。
そう、校門で口説かれていた金髪の少女は、優太の主人、アリスであった。
「ああ?」
釣られて、彼女を囲んでいた少年達が優太へと振り向き、獲物を横取りするなと睨めつけてくる。
「待たせたな、アリス。それじゃ行こうか」
「うむ。早くパンケーー」
下手に反応して相手を刺激させると、面倒な事態になる事を経験上知っていた優太は、最初から彼らを相手にせず、アリスだけを呼び寄せようとした。
「ちょ、待てよコラ」
だが、そううまくいく訳もなく、少年達は優太とアリスの会話を遮り、彼らの間に割って入り合流する事を妨げた。
「先にこの子に声掛けたの俺らなんですけどー。あんた彼氏か何かー?」
少し苛立ちの含む声で、囲んでいたうちの1人である、灰色の長髪をした少年が優太に問い掛ける。
本当は相手をしたくなかったが、向こうから絡んできたので優太は仕方なく応じた。
「俺は彼女の友達だ」
不要ないざこざを避ける為に、迷いなく堂々と即答する。
そんな返答に一瞬だけ呆気にとられた少年達だが、次の瞬間、何故か彼らは爆笑した。
「あはははは!ただの友達かよ!」
「しかも、堂々と!友達だって!あぁ、腹痛ぇ!」
「マジウケるー」
少年達は言いたい放題言った後、値踏みするような視線で優太の全身をチェックする。
「なるほどなぁ。確かにこいつの見た目じゃ、ただの
茶髪の少年が何かに納得したように頷き、そして鼻で笑った。
「確かに。この子に全然似合わないじゃんねー。むしろ、
「地味だしな。ほら、俺も金髪だし俺の方がお似合いじゃね?」
それに同調して、長髪と金髪の少年達も優太を
彼らの言葉に、正直苛立ちを覚えた優太だったが、場所が場所であり、入学前から要らぬトラブルを起こして、これからお世話になる教師達に目を付けられてはたまらない為、ぐっと堪える。
だが
「わらわの友達を馬鹿にするでないわ!」
「あ」
ー パシィイイン! ー
「
そんな優太の内心などお構い無しに、茶髪の頬を思いっきり
アリスである。
「友達の何が可笑しいのじゃ!何故そなたらに優太を値踏みされねばならぬ!そもそも優太の何を知っておるのじゃ!」
彼女は友達を笑われ侮辱された事に激昂し、少年達に詰め寄る。
少女に叩かれたショックと、その迫力に気圧された茶髪が後退り、優太までの道が開けたので、アリスはプンスカ怒りながら彼と合流した。
「優太!さっさとパンケーキを食べに行くのじゃ!今しがた経験した不愉快な記憶を忘れるぞ!」
「お、おう。」
穏便に済ませたかった優太は、彼女の行動に思うところもあったが、指摘すると噛みつかれそうなので、諦めて彼女の言葉に素直に従う。
それに、友達である自分の事で怒ってくれたので、嬉しい気持ちも多少なりあったのだ。
優太達が校門を後にする時、ショックから立ち直った茶髪達が報復の為、追い掛けてこようとした。
しかしーー
(ユータ様の格好良さが分からないとは、目が節穴ですね)
リリのため息が聞こえ、その直後、彼らは何もないところで突然足がもつれて転倒した。
不可視の状態でリリが少年達の足を引っ掻けて転ばしたのだ。
先程から目立つ行動が多かった為、周りから注目されていた茶髪達は、何もないところで転んだ姿もばっちり見られており、その間抜けな様子をクスクスと笑われた。
「くそが。覚えとけよ・・・」
大勢の前で恥をかかされた茶髪達は、優太達の背を恨みがましく睨み、居心地が悪くなったその場から逃げるように退散した。
「おおおぉぉぉ!美味しいのじゃ!!」
一口食べたアリスは頬を最大限に緩ませ、幸せ全開で味の感想を述べる。
優太は道すがら、自分の代わりに怒ってくれたアリスとリリに感謝を伝え、彼女らが行きたがってたパンケーキ屋で、現在とても話題となっているパンケーキをごちそうした。
その際、さっそく部活紹介での出来事を話す。
「ふむん。火守の魔女とな」
優太は超常現象研究会の少女の事を話しながら、パンケーキが刺さっているフォークを、自身の椅子の斜め下へ持っていった。
しばらくして、フォークを手元に戻した時には先程まで先端に刺さっていたパンケーキが跡形もなく消えていた。
(噂に違わず、とても美味しいです)
リリのとろけたような念話が頭に届く。
優太の先程の行動は、椅子の横で待機しているリリにパンケーキを与えるものであった。
「それは良かった。それで、その先輩の事が気になったんだ」
「わらわも気になったのじゃ。何故、目撃者全員の記憶が消されておるのに、怪しげな儀式をしていたと分かるのか」
「そこじゃない。いや、それも気になるけど。・・・それよりも魔法使いに助けられたってところだ。それに、先輩が『火守の魔女』って呼ばれている事もな」
「まあ、魔法使いについては、そなたも予想がついておるはずじゃ。魔女と呼ばれておったのは、学舎で怪しげな儀式をしておったからではないのか?」
「俺もそう思ったけど、噂が流れている場所は白蹄高校だ。だったら『白蹄の魔女』にならないか?」
「うーむ・・・そなたの考え過ぎじゃと思うがの。単にその者の家が有名じゃから、学舎の名よりも印象付いて、そちらが定着したのであろう」
「んー、そういうもんかなぁ。何か気になるんだよな」
「じゃったら入学してから、上級生を捕まえて聞き出せば良かろう。幸いにも1つ上の学年じゃし、運が良ければ『火守の魔女』と名付けた張本人に会えるかもしれぬ」
「・・・そうだな。特に急ぎでもないし、気が向いた時に聞きに行こう。それと、先輩が助けられた魔法使いって、やっぱりセラフィリアス人なのか?」
「誰かまでは特定出来ぬが、ほぼ間違いなくセラフィリアス人、またはクリシュナの者じゃろうな。わらわやシュードイラ殿がそうであるように、白騎士様の故郷である日本で騎士契約を結ぼうとする者は少なくない。それに、王政府関係者も多くこの街におるから、彼女が幼い頃に偶然わらわの国の者に助けられた事は十分ありえる話じゃ」
「じゃあ、その助けた魔法使いが白騎士って可能性は・・・?」
「・・・それもありえぬ話ではない。そなたも彼女と同じように幼い頃、白騎士様に助けられたのじゃろ?そなたと彼女の歳はそう変わらん。そして、住んでいる地域もじゃ。とすれば、彼女もまた白騎士様に助けられている可能性が高い」
「そうだよな。・・・よしっ。入学したら一度、直接先輩に聞いてみるか」
「うむ、もしかしたら白騎士様の手掛かりを得られるかもしれぬしな」
白騎士へ繋がる可能性を見つけた2人と1頭は、パンケーキの美味しさも相まって自然と表情がほころぶ。
白騎士探しに焦りはない。
焦りはないが、手掛かり無しのままだと、どうしても不安が募ってしまう。
そして、焦りはないが、願うなら早く会いたい。
友とたくさん話す為に。
恩人にたくさん教えてもらう為に。
パンケーキ屋を後にした一向は、優太が明日、高校の入学式の為、散策を早めに切り上げて帰路につく。
「あっ、そういえばアリス。何でお前は校長に用があったんだ?」
夕飯の材料が入った買い物袋を持って歩いていた優太は、朝から気になっていた疑問を口にした。
「それはの、ヒ・ミ・ツ・じゃ。まあ、焦らずとも直ぐに分かる。そなたにとっても嬉しい事じゃから、楽しみにしておくのじゃ」
前を歩いていたアリスは優太へと振り返り、悪戯めいた口調と仕草で可愛いくはぐらかす。
対して優太は気が重くなり、囁くような独り言と小さなため息を吐く。
「はあ、またまた嫌な予感しかしないんだがな」
「何か言ったか?」
「いーや、何も。明日から新しい生活が始まるんだなって」
「そうか。じゃが、ただの新しい生活ではないぞ。
楽しい新生活じゃ!」
優太の皮肉など、どこ吹く風で前に向き直り、両手を空へと掲げた。
「あ、一番星」
アリスの手の向こうに、夕焼け空の中、光輝く星が1つ見える。
その優しくも力強い光は、優太達の新生活を見守ってくれているようであった。
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