王女なクラスメイト

ー ざわ、ざわざわ ー


教室内がざわめく中、担任の教師が出席確認をとっていく。


村山康介むらやまこうすけさん」


「っス」


弥生坂愛理やよいざかあいりさん」


「はいっ」


雪城優太ゆきしろゆうたさん」


「あっ、は、はい」


全員、名前を呼ばれて返事をしているが、その視線は教師の方ではなく、別の所に注がれていた。

優太も驚きを滲ませた顔で皆と同じ場所を見ており、教師に名前を呼ばれて慌てて返事をする。


ざわめきの原因は2人の女子生徒であった。

彼女らは昨日のクラス紹介での顔合わせ時にはおらず、また、現在教卓の横で静かに佇んでいる事から、出席確認の後、担任の教師から説明と紹介がある事が窺える。

それだけでは、ここまでざわめく事もないのだが、彼女らの風貌が皆をそうさせる。


1人は肩より少し長めの、ゆるくウェーブがかかった金髪と澄みきった碧眼をしており、もう1人は肩より少しだけ短いミディアムボブな銀髪で、美しい琥珀色の瞳をしていた。

そして何よりも、双方とも容姿が整っており、紛れもなく外国人美少女であったのだ。

クラス内が羨望と嫉妬、好奇心でざわめく中、優太の心は別の意味でざわめいていた。というか驚いていた。


2人のうち金髪の方は、優太がよく知るアリスであり、昨日のやり取りから、入学する事は大方予想していたので驚きは少なかった。

優太が驚いたのはもう片方の銀髪少女である。

彼女とは初対面のはずであった。

それにも関わらず、優太は彼女の事、正確にはその正体が分かってしまった。


「ーーでは出席の確認ができましたので、昨日の顔合わせでは都合により参加出来なかった2名のクラスメイトを紹介します」


教師の言葉にざわめいていた声がピタリと止まり、今まで以上に好奇の視線が、壇上に上がる2人に浴びせられた。


「アリスティア・イリアメント・セラフィリアスじゃ。皆の者、よろしく頼む」


自己紹介を促されたアリスは明るい笑顔と共に簡潔に行った。

ちなみにその笑顔を向けている先には優太がおり、驚いた表情の彼に対して、心の中でサプライズ成功のドヤ顔をしている事は明白であった。

実はアリスに対して特に驚いていないという悲しい事実を知らずに。


そして、もう1人の銀髪少女の番となった。


彼女は静かに、しかし良く通る声で、淡い笑顔を伴い自己紹介を行う。


「リリエッタ・シエラウルナです。日本は初めてで、何かと御迷惑をおかけしますが、皆様よろしくお願い致します」


「やっぱり・・・」


優太は人知れず納得し、息を吐く。

銀髪少女の正体はリリであった。

確かに彼女の髪は雪華狼リリの美しい毛色と同じであり、瞳の色も人間に合わせている為か多少鈍くなっているが、雪華狼リリのそれと同じ色系統である。

彼女もまた視線の先に優太を捉え、悪戯が成功した子どものように、軽い微笑みと共に小さく舌を出した。


「アリスさん達は今回が初めての語学留学となります。彼女達の国と日本との文化の違いなどで、色々な問題や戸惑いが出るかと思いますので、クラスの皆さんも、彼女達が困っていたら力になってあげて下さいね」


最後に教師がそう締めて、アリス達の自己紹介はこれで終了となった。

その後、新入生全員が体育館に集合し、入学式が行われ、アリス達は式の最中でも周りから好奇の視線を注がれていた。

入学式は予定通り午前中に終了し、授業は明日から開始される為、本日の午後は自由時間となった。


明日からの授業に備えて、めいいっぱい遊ぶ為に帰宅する者や、新しい友達を作る為に連絡先を交換するのに奔走する者など様々であった。

そんな中、学食で軽く昼食を取った優太達は、気になる部活の見学をしようと文化棟の廊下を雑談しながら歩いていた。


「アリス達はどうして急に入学する事にしたんだ?」


「昨日も話したが、わらわは学舎で学んだ事がなかったのでな。成人の儀式後に学舎に入るのじゃが、そこは学場というより権力争いの場に等しい。じゃから、このような一般的な学生生活に少し憧れを持っていたのじゃ。そして、一昨日そなたから入学式の話を聞いて、つい、な」


「・・・そっか。じゃあ楽しまないとな」


アリスの少し寂しそうな表情と声に対して、優太は優しく返す。


「うむ!めいいっぱい楽しむのじゃ!」


彼の優しい心遣いに彼女に笑顔が戻る。


「そういえばリリって人型になれるんだな。それって魔法なのか?」


「魔法というよりは聖獣特有の人化能力です。魔力は使いますけど」


「人型で行動した方が、不可視の魔法を使うより便利なんじゃないのか?」


「買い物をする時など、日常生活で人と接する時は確かに便利なのですが、私本来の身体と構造が違う為、緊急時の反応が鈍くなってしまうのです」


「ああ、確かに四足と二足じゃ勝手が違うよな。状況によって使い分けないといけないなんて大変だな」


「御気遣いありがとうございます。しかし、幸いな事に人の姿でも鼻と耳は本来の姿と同じくらい利くのです。

なので人型でも危険をいち早く察知でき、余裕をもって本来の姿に戻り対応できるので御安心下さい」


「なるほど。それは良かった


「それはそうと、ユータ様。私の学生姿どうですか?可愛いですか?」


「うっ。そ、そりゃあ、な」


「曖昧な答え方はNGですよ?イエスかノーで御答え下さい」


「・・・イエス」


「あはっ。ありがとうございます。ユータ様ってば照れ屋ですね」


「・・・男子は皆そうなんだよ」


「じゃあじゃあ優太よ。わらわはどうじゃ?可愛いか?可憐じゃろう?さあ、素直に申せ!」


「そうだな。騒がしい」


「優太のアホー!」


ー バキッ! ー


そんな戯れをしていた時、突如リリが黙り遠くを見据えた。


「どうしたのじゃリリ?」


リリの反応が気になり、アリスが問い掛ける。


「・・・女性の声が聞こえます。どうやら問題が起きているようです」


「そうか・・・よしっ。部活見学は後じゃ。その声の主を助けに行くぞ!」


「ああ!」


「はい」


アリスの号令で目的が変更となったが優太達に不満はない。むしろ主の判断を喜んでいた。

学校でのトラブルなど些細な事だ。

しかし、彼女は見過ごさない。


困っている者の為に立派な王女になるのが彼女の目標だから。

どんなに些細な事であろうと、そこに困っている者がいれば手を差し伸べる。

それが優太が敬愛する彼女の姿である。


そして、リリに案内され一行が向かった先にはーー

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