彼の面影
声の主はアリスであった。
優太が入り口に目を向けると、ちょうど真剣な表情の彼女が駆け寄ってくるところであった。
「・・・アリス?何でここにいるんだ?それにリリは?」
「そんな事どうでも良い!それよりも先程の質問に答えよ!」
優太は聞いて当然の質問を投げ掛けたが、鬼気迫る様子のアリスに一蹴される。
「そんな怖い顔していったいどうしたんだ?一旦落ち着いて冷静になれよ」
明らかに様子がおかしいアリスを落ち着かせる為、優太は出来るだけ優しく、ゆっくり話しかけた。
しかし、今の彼女には効果がなく尚も詰め寄ってくる。
「わらわはいつだって冷静じゃ!馬鹿な事を言っとらんで早くーー」
ー パシィッ ー
語気を強め迫るアリスであったが、全ての言葉を言い終わらないうちに、突然優太に頭をはたかれた。
「あいたっ!何するのじゃ!?わらわは王女じゃぞ!」
「王女だろうが俺の友達だ。友達の暴走を止めて何が悪い?」
「っ!・・・ぼ、暴走など・・・した、かもしれんが」
『友達』という言葉に反応し、我に返ったアリスは、暴走していた自覚があるのかバツが悪そうに目を逸らした。
「別に怒ってる訳じゃないんだ。驚きはしたけど・・・アリスにとって、さっきの俺の構えがそれだけ必死になるくらい大事な事だったんだよな?」
優太は努めて優しく彼女に語りかける。
「でも、まずは落ち着いてくれ。ほら、深呼吸しよう」
「あっ・・・」
「どうした?」
「な、なんでもない!」
「そうか?・・・じゃあ、目を閉じて。ゆっくり息を吸って。・・・一旦止めて。はい。ゆっくり吐いて・・・もう一度繰り返して。・・・・はい、もう一度。・・・・どうだ、落ち着いたか?」
「う、うむ・・・」
気恥ずかしさから断ると思ったが、アリスは素直に聞き入れ、指示に従って深呼吸を行う。
深呼吸した後、落ち着きを取り戻した彼女は恥ずかしそうに謝罪した。
「優太。その・・・取り乱してすまなかった。あと・・・落ち着かせてくれた事、感謝する」
この時、ようやく彼女の顔に笑顔がみえ、緊張していた場の空気が和らいだ。
「気にする事はないさ。俺はお前の友達なんだから。・・・さて、じゃあ本題に移りたいところなんだが・・・すまん。話が長くなるから帰ってからで良いか?」
「もちろんじゃ。先程は急かしてしまったが、そなたが話してくれるならいつでも良い。知って今どうかなる訳でもないしの」
「緊急な事じゃないのか?」
「いや、どちらかといえば、わらわが捜していた者の手掛かりとなるかもしれない事なのじゃ」
「そういえば、命の恩人を捜してるって言ってたな」
「そうじゃ。わらわがこの地球へ来た本当の目的は、命の恩人である騎士を捜す為じゃ。まあ、昨日そなたと会った事により、彼との約束を果たしてから捜そうと思い直したがな。
・・・しかし、先程そなたの構えを見て彼の面影を感じ焦燥に駆られる自分がいた。恥ずかしい限りじゃが彼の事になると抑えが効かないらしい」
「命の恩人だからな。俺も気持ちは分かるぞ。それに・・・今の話で俺も少し気になる事ができた。そうとくれば早く片付けて帰ろうか」
「わらわも手伝うぞ」
「ありがとう。すまんがクールダウンするから少し待ってくれ。あと、リリは?」
(私はここにいます)
落ち着きのある女性の声と共に道場の背景の一部が揺らめいて、徐々に大型獣の輪郭を帯び、リリが現れた。
「リリ!ずっといたのか!?」
(はい。アリス様と共にずっとユータ様を追っていました)
「何だ。だからアリスもこの場所が分かったんだな。だったら途中で声を掛けてくれても良かったのに。それにリリはどうして姿を消していたんだ?」
(屋根伝いに移動していたので、アリス様1人ならともかく、私も姿を見せていると目立ってしまうのです。声を掛けずにいたのはユータ様がどこへ行くか興味がありましたので行き先を見守っていました。
それに・・・アリス様の朝食がなかったので、もしかしたらサプライズの歓迎パーティーの準備があるかと期待していたのです)
「屋根伝いに追われてたなんて全然気付かなかったよ。それは悪かったな、朝食の用意をすっかり忘れてた。
あと、申し訳ないが俺は一般人だからパーティー等の催しに疎いんだ。その御詫びとして朝食を食べたら今日はこの街を案内しよう」
優太は謝りながらクールダウンのストレッチを行う。
「それは助かる。まだこの街に来たばかりで地理に疎いのじゃ」
手持ちぶさただったので一緒にストレッチを行っていたアリスは優太の提案に喜んだ。
「さあ、クールダウンはこのくらいにして、掃除しようか。手伝ってくれ」
「任せろ!」
(私も御手伝い致します)
2人と1頭は道場を綺麗に清掃し、礼と共に道場を後にする。
アリスとリリも礼儀作法の心得があるのか、優太の見よう見まねでそれぞれ礼を取った。
「そういえば、そなた先程王女であるわらわをお前呼ばわりしたじゃろう」
「あっ!すまん・・・つい仲の良い友達みたいに扱ってしまった。」
「な、仲の良い友達!?そ、それならば仕方ない」
「・・・割とチョロいな」
「ちょ、ちょろっ!?何をいうのじゃ!あほー!」
「あはは」
帰路では楽しく談笑しながらジョギングを行った。
いつもは黙々と走る優太だが、この日は笑顔が絶えない。
一緒に走る者がいて気分が高揚しているのか、この後の話し合いを彼も期待しているのか。その両方か。
優太はアリスやリリと共に足取り軽く走る。
運命の朝食に向けて。
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