朝食は涙味
時刻は9時過ぎ。
帰宅した優太はシャワーで軽く汗を流した後、朝食の準備に移る。
父親の海外転勤に伴い、優太以外の家族が着いて行った為、優太は3月の初頭から一人暮らしをする事となった。
それまでにも自身の朝食や洗濯等は時々していたので、急な一人暮らしとなっても現在まで、さほど困らず生活ができている。
今日の朝食は焼いたトースト、目玉焼き、ウインナー、そして、コーヒー。
THE・朝食といったところだ。
食べれるかは分からないが、念の為リリの分まで用意して、アリス達の待つダイニングテーブルへと運ぶ。
「お~、美味しそうじゃのう!早く食べようぞ!」
テーブルに置かれた朝食を見てアリスは目を輝かせた。
「まあ待て。いただきますの挨拶をしてからだ」
「いただきますの挨拶・・・食事前の祈りのようなものかの。あい分かった」
「一応リリのも作ったけど、俺達と同じものを食べられるのか?」
(はい。可能ですのでありがたくいただきます。出来れば床に置いていただけると助かります)
「そうか。じゃあここに置くぞ。・・・よし、アリス達は俺を真似てくれ。まずは手を合わせて」
優太の動きに合わせて、アリスも手を合わせる。リリは前足を上下に重ねて真似た。
「次は俺の言葉に続いて言ってくれ。・・・『いただきます』」
「(いただきます)」
「・・・よしっ。食べようか」
「やった!」
優太の号令の下、各々は朝食を食べ始める。
アリスはトーストに苺ジャムを塗り、一口サイズにちぎり上品に口へ運ぶ。
「うむ。パンはこちらの世界でも美味しいな」
「アリスの世界にもパンはあるのか?」
「パンだけでなく他の食べ物も多少の差異はあるが、食文化は概ねこの世界と似通っておるぞ」
アリスは満足そうに食べ進める。
「そうなのか。じゃあ文化や生活とかも似てるのか?」
「セラフィリアスは人間が中心となっている国じゃし、日本と交流もあるから似ておるところが多いな。他の種族が中心となっている国では文化等は大分違うが」
「人間以外の国があるのか?地球じゃ考えられないな」
「クリシュナも元々は人間ばかりの世界だったそうじゃが、大昔に異世界と繋がる魔法を発見してからは様々な種族が行き交うようになって、現在では多種多様な種族が国家を持つ世界となったのじゃ」
「なるほど、異世界に繋がる魔法か・・・凄い壮大だな」
「文献によると、きっかけと経緯は複雑じゃがな」
「文化交流や貿易の為じゃなかったのか?」
「その頃、クリシュナは長く続く世界規模の戦いで、どの国も疲弊しておったのじゃ。そこで、大元の侵略戦争を起こした、とある帝国が状況を打開しようと研究の末に発見したのが、魔界の門を開ける・・・つまり、魔界と繋がる魔法じゃった。
その帝国は魔界の軍勢を利用して、クリシュナ全土の国々を一気に侵略しようと考えたのじゃが・・・帝国も戦争で疲弊しておって魔界の軍勢を制御出来ず、逆に飲み込まれてしまったのじゃ。
そのまま魔界の軍勢は暴走してクリシュナの国々を次々と支配していっての。
そして、いよいよ残り数国となった時、生き残った国が結託し、クリシュナの存亡を掛けて編み出したのが・・・異世界と繋がる魔法じゃった」
アリスは朝食を食べる手を止め、優太にクリシュナの歴史、そして彼女が愛する物語を語った。
もちろん白騎士の事も。
優太も手を止め彼女の話に興味深く聞き入った。
「ーーという訳で、魔界の門が封印された後も七英雄の世界とは繋がり続け、今でも交流が行われておる」
「そうなのか・・・って、え?・・・もしかして、この世界もその内の1つなのか?それに白騎士って、アリスの命の恩人じゃなかったか?」
「そうじゃ。ここ、日本はセラフィリアスと繋がっておる・・・白騎士が召喚された時からな」
「日本が白騎士の・・・」
「そして、わらわは幼い頃、白騎士に救われた。その者が本物かは分からぬ。まあ、常識的に考えると本物であるはずがないのじゃが。しかし、わらわにとっては彼の騎士こそが白騎士であり、立派な王女を目指すきっかけを与えてくれた者なのじゃ」
「そういえば、立派な王女を目指してるって言ってたな。それに彼に会いにここに来たって。もしかしてアリスの恩人の騎士も日本に縁があるのか?」
「そうなのじゃ。彼に貰った『これ』を手掛かりにしてここへ導かれての」
アリスはスカートのポケットから大事そうにある物を出して優太に見せた。
「これは・・・縁結びの御守り?」
彼女が取り出した物は1つの縁結びの御守りであった。
古ぼけてはいるが、とても丁寧に扱われているのが分かる。
「これは彼との別れ際に頂いたのじゃ。あの時はとても綺麗な夕焼けじゃったーー」
アリスは思い出に浸るように語る。
母親が一般人であった為、幼い頃から王侯貴族から蔑まれていた事。
普段は北の城に住んでおり、王都へは母親の用事に付き添う時のみ訪れる事。
一度反発して館から抜け出して祭りに参加し、そこで仮面の魔法使い達に襲われた事。
そして、白騎士に助けられ、彼と共に祭りを楽しんで回った事。
別れ際に友達になり、立派な王女になる等の約束をした事。
友達の証に縁結びの御守りを貰った事。
その日以降、立派な王女になる為に頑張った事。
しかし、友達作りだけは二の足を踏んでしまった事。
成人の儀式の事。
それに
しかし、次の手掛かりが見つけられずに途方にくれ、ズルをしている自分が嫌になり悲しんだ事。
優太と出会い友達となり、運命を感じた事。
そして今日、剣道場で見た優太の構えが、白騎士の構えと同じであった為、激しく動揺した事。
全てを語るのに多くの時間を使ったが、その間優太は時に優しく、時に驚き、アリスの言葉を紳士に聞いていた。
そして、彼女が語り終え、今度は優太が語る番となった。
「実は俺も命の恩人がいて、今もその人を目指してるんだ。そして、剣道場でアリスが見た俺の構え。あれは彼の構えを参考にしたんだーー」
優太も自分の過去を語る。
幼い頃、冒険ごっこをして、見知らぬ街へたどり着いた事。
魔法使いの格好をした3人組に襲われた事。
もう駄目だと思った時、彼が現れ、まるでテレビ番組のヒーローみたいに助けてくれた事。
その姿に憧れ、自分も同じように人助けがしたいと思った事。
別れ際、彼から安産の御守りを貰った事。
彼の教え通り、心と身体を鍛えてる事。
アリスと出会い、自分も運命を感じた事。
そして今日、過去の夢を見て、その中で彼が剣を振るった事。
剣道場で彼の構えと動きを真似た事。
盾と剣を持つようイメージして構えるとしっくりきた事。
優太の話も長かったが、アリスは終始言葉を発する事なく懸命に聞いていた。
優太が語り終えた後、アリスは静かに席を立って数歩下がり呟いた。
「レーゼ。『
すると、アリスが身に付けているペンダントの赤い宝石が呼応するかのように淡く光り、彼女の手前に魔法陣が浮かび上がった。
そして、陣から一振りの剣が出現する。
「それは・・・!」
優太は驚く。
純白の鞘に白藍の柄を持つその剣は、夢の中で彼が振るった剣にとても酷似していた。
(あれ?でも・・・)
目の前の剣が夢の中の剣とどこか差異がある事に優太は気付いた。
しかし、具体的に何が違うかは思い出せない。
一方のアリスは出現した剣を大切に抱え、真剣な表情で優太に問う。
「わらわの記憶を元に作ってもらった
(なるほど、幼い頃のアリスの記憶を元にしてるから、俺の記憶と多少の違いがあるのかもしれないな)
優太は剣の違いについてそう納得し、アリスの問いに答えた。
「ああ。その剣だ」
「!」
優太の肯定の頷きを見たアリスは目に涙を溜め剣を抱き締めた。
「やはり、そなたとの出会いは運命じゃった」
彼女の様子を見て優太も確信する。
「じゃあ、やっぱり・・・」
「そうじゃ。白騎士は、わらわとそなたの恩人は・・・同一人物じゃった・・・!」
アリスは涙を流す。
探し求めて一度は諦めかけていたものが、白騎士の手掛かりが見つかったのだ。
「やはり優太・・・そなたは運命の友じゃ・・・」
優太も泣きはしなかったが、様々な思いが胸を駆け巡った。
朝のアリスの様子等から、もしやとは思っていたがまさか本当に命の恩人が同一人物だったとは。
そしてアリスが持つ
自分の記憶のものとは多少差異があるが、ほぼ同じであり夢の中の出来事を思い起こさせる。
夢の記憶を辿るうちに、いつしか優太の中に彼と再会したいという想いが芽生えた。
彼の教え通り、身体と心を鍛えて7年。
少しは成長したのかもしれない。
しかし、まだまだだという自覚もある。
今のままでは目指すものになれないのではと不安になる事もある。
そんな自分に今の彼ならどんな言葉をかけてくれるだろうか。
優太はリリに優しく包まれ慰められているアリスに1つ提案した。
「なあアリス。俺達の恩人を探さないか?」
アリスは涙の溜まった目を優太に向ける。
「でも・・・立派な王女になる約束が・・・」
「捜しながらなれば良いさ。それに友達作りも。実際、昨日俺と友達になれたんだ。向こうの世界では難しかったかもしれないが、こっちならきっと大丈夫だ」
「・・・捜しても良いんじゃろうか?ズルい奴だと思われんじゃろうか?」
剣を抱く腕に力が入り、不安な表情でアリスは訊ねる。
「今まで一生懸命頑張ってきて、命の恩人を捜す為にここまで来たお前に誰がそんな事を思う?それに白騎士はお前の初めての友達なんだろう?」
「う、うむ」
「だったら何も問題ない。友達に会うのに理由はいらないんだよ」
「っ!」
一度は止まったアリスの涙が再び流れ出す。
諦めかけた想いを再び追う事が出来る喜びと、後ろめたさを拭い去り背中を押してくれる友ができた幸せを噛みしめながら。
しばらくして、泣き止んだアリスに優太は話し掛けた。
「さあ、冷めきらないうちに残りを食べようか」
「そ、そうじゃな。待たせてしまってすまぬ」
アリスは真っ赤に腫らした目を彼に向けて少し微笑んだ。
再び穏やかな朝食をとり始めた中、アリスはふと疑問を口にする。
「そういえば優太はわらわの為だけに白騎士を捜す提案をしたのか?」
「いや、実は俺も彼・・・これからは白騎士と呼ぼうか。その人に会いたくなったんだ。今まで1人で鍛えてきたんだが、最近いき詰まってきてさ。限界がみえてきたんだ。そこで白騎士に会って、出来れば彼の弟子にしてもらいたいんだ」
「白騎士の弟子か。良いではないか。彼の下でならきっと強くなれるじゃろう」
「弟子にしてもらえたらの話だけどな。その前にまず白騎士を捜さないといけないけど。まあ、口だけ動かしても何も進まないし、少しずつでも行動に移さないと」
「そうと決まれば早速今日から白騎士を捜したいのじゃが」
「そうだな。今日はこの街を案内する約束だったし、ついでに白騎士の手掛かりがありそうな場所にも行こうか」
「そんな場所があるのか!?」
「ああ、まあ・・・その場所に何回も行ってるが、今のところ何も見つかってないけどな。でも、俺だけじゃなくアリスやリリも一緒だと何か手掛かりが見つかるかもしれない」
「人数が多いと探す範囲も広がるしの。あいわかった。是非ともその場所も案内しておくれ」
「了解。じゃあ食べ終わって出掛ける準備が出来たら行こうか」
「おう!」
(はい!)
この後の予定は決まった。
たくさん街を練り歩く為にも、朝食をしっかりとって体力をつけておかねば。
元気の良い返事と共に、全員が軽快に食事を食べ進めた。
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