運命の夜

アリスティアが切実な願いを言った後、優太は一拍置いて口を開いた。


「おう、もちろんだ。こちらこそよろしく頼む」


安心させるようにゆっくりと優しく伝える。


「っ!ほ、本当か!?」


アリスティアは口に手を当てて優太の答えを確認する。

半信半疑の口調であったが、彼女の表情や雰囲気から、今すぐにでも喜びが爆発しそうである事が読み取れた。


「こんな事に嘘ついてどうするんだよ。まあ、正直最初は面倒な奴だと思ってたけどな。でも、話していると楽しいし、芯がしっかりしているしで、段々とアリスティアさんに興味が湧いてきて、友達になってもっと君や君の世界の事を良く知りたいと思ったんだ。それに、異世界の王女と友達になる経験なんて普通じゃ絶対に出来ない事だしな」


照れ隠しからか、優太の口調は少しぶっきらぼうであったが、自分も友達になりたいという意志はしっかりと表に出ていた。


「本当に本当じゃな!?もう取り消せぬからな!」


「だから本当だって。それよりアリスティアさんだって侍従じゃなくて友達で良いのか?」


「うっ・・・い、いじわるじゃのう・・・そ、その、あの時は調子に乗ってて申し訳なかった・・・」


何度も確認していたアリスティアはちょっとした仕返しをされ、しどろもどろとなる。

また、その一方で過去の発言を謝罪した。


「それで・・・本当にわらわと友人になってくれるのじゃな?」


改めてアリスティアは期待と不安が入り交じった表情で訊ねる。


「ああ。アリスティアさんと俺は友達だ」


優太は彼女の不安を払拭する為に力強く頷き、はっきりと伝えた。


「あ、ありがとうなのじゃ!」


(良かったですね、アリス様!)


友達になったという実感がようやく湧いたアリスティアは、花が咲いたような華やかな笑顔となった。

リリの声も喜びに溢れ、見ると2本の尾も嬉げに揺れており、主人の吉報を祝福しているようである。


友達1人作るのになんて大袈裟なんだと思わなくもなかったが、彼女の過去の経験からすればとても勇気のいる事なんだろうと納得し、優太は浮かれる彼女らを黙って見守っていた。


「なあ、アリスティアさん」


しばらく眺めていた優太はふと時計に目をやり、彼女らが落ち着いた頃合いを見計らって声を掛けた。


「なんじゃ?優太。あ、そうじゃ!わらわの事はこれからはアリスと呼んでおくれ。様もさんもいらぬ・・・だって、友人じゃもの」


余韻の残る赤い顔で優太と向き合ったアリスティア・・・アリスは照れながらも満面の笑みで応える。


「分かった。じゃあ、アリス。そろそろ家に帰るぞ。補導されると色々面倒な事になりそうだし」


「おお、そうじゃった!時間をかけてしまいすまぬ。補導とやらは知らぬが、もう夜も遅く道行く人の姿もなくなったしな。それでは優太よ、世話になるぞ」


(よろしくお願い致します)


「ああ。リリもよろしく。まあ、もてなしとかは出来ないが、その辺は許してくれ。じゃあ行くか・・・あっ!そういえば人払いの結界というのはそのままでいいのか?」


アリスとリリに帰宅を促し、公園から出ようとした所で結界の存在を思い出す。


「あ!そうじゃった!嬉さのあまり忘れておったわ。今は公園の外には誰もおらぬな?・・・では、『認識阻害結界アンチマテリアルフィールド解除リリース』」


ー パキィン! ー


人がいない事を確認したアリスが何かを呟いた直後、彼女の胸元にあるペンダントに埋め込まれた赤い宝石が淡く光ったかと思うと、公園の周りから薄い氷が砕けるような音がした。


「今の音は何だ?それに、そのペンダント・・・ただの装飾品じゃなくて魔法に関係してるのか?」


「今のは結界が砕ける音じゃ。結界自体はわらわが遠く離れた場合でも自然に砕けるが、今の音は誰にでも聞こえるから注意せねばならぬ。あと、このペンダントは『知能あるインテリジェント・メイル』といって、一言で言えば魔具じゃ。まあ詳しい説明はおいおいするとして、今はユータの家に帰る事が先決じゃ」


「そうだな・・・話しが長くなりそうだし、また家に帰ってから聞く事にするよ。じゃあ、帰ろうか」


「うむ!」


こうして2人と1頭は家路へと着く。


「そういえば、アリスよりリリの方が見つかったら大変だよなあ」


(ユータ様。その辺りは御安心下さい。魔法で他の者達からは普通の犬に見えるようにしていますので)


「へえ。そうなのか。魔法ってやっぱりすごいな 。それとリリ。俺の事は様付けしなくて良いぞ。殿もいらないからな」


(御言葉はありがたいですが、私も使い魔なりの矜持がありますので、御気持ちのみ嬉しく受け取らせていただきます。それにアリス様の大切な御友人ですし)


「そうか。ただ、俺はリリとも友達だと思ってるから、何かあったら気軽に言ってくれ」


(・・・やはりユータ様は可笑しな方でございますね。)


「そうじゃ、ユータは可笑しな奴なのじゃ!それはそうとユータ。先程そなたの食事をわらわが食べてしまったのじゃが・・・大丈夫なのか?」


「うーん・・・一応家にあるもので料理出来るけど・・・面倒だし帰りにまたコンビニに寄って弁当でも買うか。でもアリスがいると目立つしなあ」


「わらわは隠れておるから問題ない。その代わり、わらわにまた親子丼を買ってくれ!」


「そんなに美味しかったのか?買うのは良いけど、夜に2回も食べるとデブるぞ?」


「デ、デブる!?乙女に何て事を言うのじゃこのデリカシー無し男め!!」


ー バキッ! ー


2人と1頭は騒がしくも楽しく歩みを進める。

その足取りは軽やかだ。

時に言い合い、時に笑い会い、その姿はまるで長年共にいる親友のようである。

今日出会ったばかり、友達になったばかりの2人であるがお互いに信じていた。


この縁はきっと運命である。


そして、この先には明るい未来があると。


3月下旬の寒空の下、優しく輝く月と星々に見守られながら、今日この瞬間、優太とアリスは未来への一歩を踏み出した。

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