友達
侍従(じじゅう)とは、高貴な立場の人物に付き従い、身の回りの世話などをする行為、または従う者そのものを指す。
つまるところバリバリの上下関係であり、アリスティア(王女)>優太(侍従)な関係となる。
先ほど芽生えた友情はどこへやら。
優太は侍従の意味は知らなかったが、アリスティアのセリフに不穏な
「なあ侍従って何だ?それに俺の家を城にするって・・・嫌な予感がするんだが」
「嫌な予感とはなんじゃ!そなたの住居がわらわの居城となり、更にわらわの世話ができるのじゃぞ?名誉な事ではないか!」
「侍従って世話係の事か!それに俺の家に住み込む気か!?」
「住み込むのではなく居住するのじゃ。あと、わらわの城となるので、どちらかというとそなたが住み込む形となる」
「家を乗っ取る気満々だ!?・・・冗談じゃない。家はそもそも俺の一存でどうこう出来るものじゃないし、君の世話なんかも無理だ」
「む〜!心の狭き者め!助けてくれると言ったではないか!」
「出来る事は限られているって言ったぞ?」
「力を尽くそうとも言ったであろう!何故に駄目なのじゃ!?」
断られると微塵も思っていないような態度で話し始めたアリスティアだったが、優太の思わぬ反対にあってから余裕は徐々に消え、しまいには地団駄を踏み始めた。
その姿はもはや王女などではなく、自分のわがままが聞き入れられず癇癪を起こす子どものようだった。
「それは君が心底困っていたようだったから、俺に出来る限りの事で手を貸そうとして聞いたんだ。でも、蓋を開けてみたら、君の要望は侍従になれだの家を渡せだのと身勝手なものばかりだ。助けたい気持ちも削がれてしまう。もし俺と君が友達だったとして、俺からそんな事を言われたら嫌だろう?」
アリスティアの子どものような態度に呆れつつも、先程、彼女と少し分かり合えた事と、また、自分の妹の姿と重なってみえた事もあり、優太は自身の甘さを多少感じながらも、最初のみ言葉を厳しめにして、次第に優しく諭すように語りかけた。
「と、ととと友達ぃいいい!?そ、そそそなたとぉおお!?」
一方、アリスティアは意外な反応を示した。
顔を真っ赤にして狼狽したのである。
そして、顔の熱を冷ます為に頬に手を当てうにょうにょと身体をよじる。
まるで羞恥に身悶えているように。
「ど、どうしたんだ!?」
予想外の反応に優太も面を食らう。
「な、なんでもない!そなたがおかしな事を言うからじゃ!・・・その、そなたと友達などと・・・」
最後の言葉は秘密を隠すようにささやかに発せられたが、人払いの結界のせいで周りが静寂であった為、優太の耳に微かであるが届いた。
「もしの話だったんだが・・・それでも俺と君が友達である事はおかしな事なのか?」
「べ、別におかしな事では!・・・なくもないかもしれないがそうとも言い切れぬしそもそもわらわとそなたは王女と平民であるしでも関係ないかもしれぬし・・・」
慌てて手と首を振り、優太の疑問を否定する意思を見せたアリスティアだったが、続く言葉が歯切れが悪くごにょごにょと消え入りそうであった。
頬は以前として朱に染まっている。
アリスティアの様子から、少なくとも否定的ではない事が分かり安堵した優太であったが、もう1つの可能性を発見し、つい口に出してしまった。
「もしかして・・・友達いないのか?」
「ば、馬鹿にするでない!わらわにも友・・・人?・・・はおるわ!」
無神経な一言であったが、幸いにも彼女は狼狽の尾を引いていたのと、相変わらずの歯切れの悪い返答で攻撃性を欠いていた。
また、優太の一言を聞いた時から少し表情が曇りがちになっていた。
「やっぱりか・・・いや、その、すまん」
「おると言ったであろう!?」
「じゃあ何でそんなに歯切れが悪いんだ?」
「それはその・・・じゃが本当におるのじゃ!仲の良い・・・者が!」
「そうなのか?ちなみにその友達はどんな奴なんだ?」
憶測が当たっていると感じた優太は居た堪れなくなり謝罪したが、問答中も彼女はいると頑なに言うので、本当にいるのではと思い始め、そして、その存在が気になり人物像を聞いた。
「ゔっ、え、えっと、そうじゃな・・・わらわぐらい大きくて、毛が白くてもふもふしておる・・・」
「アリスティアさんくらいの身長で髪が白いのか。こっちでは髪が白いと珍しいが、そっちの世界じゃ普通なのか?それにもふもふっていう表現も人に対し聞き慣れないんだが・・・どちらかと言えば動物に使うような・・・」
「そ、それは・・・」
歯切れの悪いまま話しを続けたアリスティアであったが、ふとした優太の言葉に詰まり、そして観念したように俯いた。
その後、しばらくしてから意を決して顔を上げ優太を見据えて喚く。
「そうじゃ、わらわの友人は人ではない!耳もピンと立っておるし、牙もしっぽもついておる!その者が唯一の友人じゃ!わらわは人間の友人がおらんさみしい奴じゃ!どうじゃ!笑いたければ笑うが良い!」
アリスティアはヤケクソと自嘲が混ざった顔で優太を見たが、一方の優太は真剣な表情で彼女を見つめ返していた。
そして、表情を崩し優しい笑顔で語りかける。
「なんだ。ちゃんとした友達がいるじゃないか」
「え?」
「誤解させてしまってごめんな。別に友人がいない事を馬鹿にしようとした訳じゃないんだ。それに友達が人間かどうかなんて関係ないだろう。テレビでもよく人間と動物との友情を取り上げてるし、実際お互い信頼し合ってるようにみえるしな。君とそいつも信頼し合える大切な友達同士なんだろう?だから俺は笑わないよ」
「そうじゃな・・・ふふ、やはりそなたは可笑しい奴じゃ」
優太が素直に謝り、そして、自分の考えを伝えた事により、アリスティアの表情から影が消え、代わりに淡い笑顔が浮かんだ。
「っ!」
その笑顔に不意にドキリとして、その事を悟られまいと思わず視線を下に向けた優太であったが、次の瞬間驚愕をあらわにした。
「え!?地面に何かが浮かび上がっている!?」
地面より数センチ上にそれは浮かび、淡い光を発していた。
様々な紋様と文字が羅列する陣、俗にいう魔方陣である。
「わらわが紹介しようと思ったが・・・どうやら自身で自己紹介する気らしいのう」
アリスティアが言い終わった直後、一陣の凍てつくような激しい風が吹いた。優太は冷たい風特有の鋭い痛みを顔に受け、とっさに腕で顔を覆い目を閉じて耐えた。
風が吹き終わった後、腕を解き目を開けた優太は、アリスティアの隣に佇む一匹の存在を認識した。
背丈はアリスティアより少し大きい。
雪の様な純白の毛並で、優太を見つめる眼は黄金色。
犬科特有の尖った口から覗く牙は、氷のように半透明であり、見る者に冷たく鋭い印象を与える。
そして、ユラリと時折揺れる尻尾はーー
「二尾の狼・・・?」
そう。
アリスティアの隣に佇んでいるのは、世にも珍しい二つの尾を持つ大きい白狼であった。
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