交流

パクッ♪


もぐもぐ♪


ゴクン♪


静寂に包まれた夜の公園内で軽快な音がなり響く。

音の出はブランコ近くに設けられたベンチ。

奏でているのはアリスティア。

彼女は上機嫌にスプーンを握り、膝の上に置いている容器の中身をせっせと口に運んでいた。


一方、隣に座る優太は釈然としない面持ちである。

時折りさする右頬には赤く手形がついてる。

しかもパーではなくグーの形。


パクッ♪


もぐもぐ♪


ゴクン♪


「んんぅ~っ!優太よ!この美味しい食べ物はなんじゃ!?」


「・・・親子丼」


「オヤコドン?・・・双角鎧獣ティグンドンの亜種かのう?」


「何だよティグンドンて。違う。親子丼は『どんぶり』という料理の一種で、具に鶏肉と卵を使ってるから親子丼という名称になったんだ」


「なるほど!日本人はセンスがあるのう。ちなみにティグンドンはイシュリナに生息する鎧のような皮膚と2本の角を持つとても雄々しい生物じゃ」


「何か格好いいじゃないか・・・」


夕飯のつもりで買ったコンビニの親子丼を結局アリスティアが食べている事に殴られ損だと理不尽を感じる優太だったが、美味しそうに食べる姿と、子犬のような純粋な面持ちで聞いてくる姿にすっかり毒気を抜かれる。

また、彼女を眺めているうちに、異世界の姫という稀有な存在に興味を引かれ始めた。


「そういえば初めて食べるのに躊躇しなかったな。それどころか毒味も。普通貴族や王様って食事毎に毒味をするんじゃないのか?」


「地球ではそうかもしれんがイシュリナの方ではやっておらん。まあ、昔はやっていたのかもしれんが、今はもう魔法で自動感知されるからのう」


「結界に続いて魔法か。魔法といい異世界といい清々しい程のド空想ファンタジーだな」


空想ファンタジーと言われても、わらわ側からすれば魔法は日常にある当たり前のものなんだがの。ちなみに結界も魔法の一種じゃ。あと、先程そなたが言いかけた「言葉が通じ合っているのは何故か」という質問の答えもじゃ」


「ああ、言葉が通じる魔法って訳か」


「正確には言語を自動翻訳する魔法じゃが、概ねその通りじゃ」


「何か魔法というより科学的な感じがするな。自動感知もそうだが」


「魔法も突き詰めれば化学に近くなる。そして、その逆も然りじゃ。更に言うと、わらわの世界では魔法・化学ともども発達しておるゆえ、魔法と科学の区別が曖昧になっておる。そもそも魔法とはーー」


「へえ~・・・」


「む?聞いておきながらあからさまに興味を失せるでない!」


「す、すまん。難しい話になりそうだったからつい」


「そなたは分かりやす過ぎるのう。はあ・・・このような者を疑ったとは」


「あー、そういや、最初めちゃくちゃ警戒していたよな?もしかして・・・誰かに追われていたりするのか?」


優太は先程までの呑気な表情から一変して、真剣な表情で尋ねた。

彼は誰であれ助けを求められれば、その力になろうとする。

たとえ殴られようと親子丼を食べられようと。

それはお人よしゆえか、それとも、あの日の想いからか。


優太の真摯な想いを感じ取ったアリスティアは少し肩の力を抜き、淡い笑顔を浮かべて、優しい声音で答えた。


「別に誰かにという訳ではない。これでも王女じゃ。それなりに懸念すべき問題もあるのじゃ。暗殺や誘拐などな。特に地球などの異世界においては自世界に比べて防御が手薄になるからのう。いつもより少々気を張っているのじゃ」


「・・・そうか。なあ、もし困った事があったら言えよ?囮や盾くらいしかできないけどな」


彼女につられて優太も表情を崩し、そして少しおどけてみせる。


「ふふっ、そなたは変わっておるのう。つい先程会ったばかりで、しかも殴り、食べ物を強奪したわらわを心配して力を借すなど」


おどけた彼が可笑しく、アリスティアはコロコロ笑う。


「悪いと自覚があったのか・・・仕方ないだろ。そう生きようと決めたんだよ」


「そうか。そうか。生き方か。なら仕方ないのう。ふふっ」


優太の芯。

それが見えたアリスティアは先ほどとは違う笑みで返す。


「なんだ?笑いたきゃ笑えよ」 


「笑わぬよ。他の者が笑おうともわらわは決して笑わぬ。わらわもそなたと同じように揺るがぬものを持っておる。・・・立派な王女になるという芯をな」


「そうか」


優太も同じ笑顔で返す。


「そなたも笑いたければ笑って良いぞ?」


「俺も笑わないよ。他の奴が笑おうと、俺は絶対笑わない」


「やはりそなたは変わっておる」


「お互い様だ」

 

そして同時に笑う。

クスクスと。

共有の秘密を持った友達のように。

幼い頃からずっと一緒にいる幼なじみのように。


こうして、特にこれといって特徴のない街の中にある、平凡な公園の中で、平凡な少年と平凡でない少女との間に、平凡よりちょっと特別な友情が芽生えたのであった。

ひとしきり笑った後、アリスティアは思いついたように口を開く。


「あっ、そなたは先ほど困った事があれば言えと言ったな?」


少し困った表情でアリスティアは問う。


「ああ、言ったぞ。・・・やっぱり何かトラブルがあるのか?」


優太の表情も真剣さを帯びた。


「うむ。思い返せばあったのでそなたに助けを求めたい。・・・良いな?」


「もちろん。できる事は限られているが力を尽くそう」


お互い真剣な表情で見つめ合い、緊迫感が最高潮に達しようとした時、アリスティアの表情が一変。


悪戯を思いついた子どものように朗らかな笑顔になった。

そして、歌うように口ずさむ。


「優太よ!わらわの『侍従』となりわらわの世話をせよ!そして、本日からそなたの家はわらわの城とするぞ!」


・・・友情?

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