少女の正体

「・・・む?な、なんじゃ?」


気持ちよく名乗りを上げた余韻に浸っていたアリスティアであったが、優太からの反応が返ってきていない事に気付き、訝しげに優太の顔をまじまじと見つめたところ、今度は彼女が困惑する事となった。


「何故そのような顔をしておるのじゃ?」


そう、今の優太はとてつもなく微妙な表情になっていた。


「えっと・・・アリス・・・何さんだっけ?」


「覚えられていないじゃと!?しかも割と早い段階で諦められとる!おのれっ、しかと心に刻み込めと申したであろう!」


「いやいや、さすがに長すぎて一度では覚えられないし」


「わらわは一国の王女じゃぞ!死ぬ気で覚えんかっ!」


「その事なんだが・・・セラフィリアス王国どころか、七雄国やイシュリナなんてのも、今までに一度も聞いた事がないぞ。そこまで地理に詳しい訳じゃないが・・・それでも、君の言い方からして結構有名な国のはずなのに、その国の事を一度も学校で習った事も、テレビで見た事もないんだ」


優太は名乗りの最中こそ、アリスティアの威風堂々とした態度と口調に魅せられていた。

しかし、すぐに彼女が口にした地名も国名も全く耳にした事がない事に気付く。

そして、それこそが微妙な反応となった原因であった。


セラフィリアス王国は元より、イシュリナや七雄国といった言葉も本当に存在しているのか?

その疑問が頭をぎり、少女の言葉を鵜呑みにできないのだ。


ただ、優太はその疑問について、2つの答えを推測していた。


1つ目は少女が嘘をついている、もしくはそう信じ込んでいる事。

この推測が正しかった場合、優太の中で少女はヤバい奴に認定される。


2つ目は・・・普通では到底信じられるようなものではない事。

だが、優太の直感はこちらを推している。


その理由として、先程『結界』という非現実的な現象を身をもって体験した事も挙げられる。

ただ、彼女の名乗りが本当であれば、非現実的な度合いは結界の比ではない。

何故なら『地球』という枠を越える事になるからだ。


そう、アリスティアはーー


「なんじゃ?突然黙りおって。ふふん?、どうやらそなたも気付いたようじゃのう。セラフィリアス王国がどこにあるのか、イシュリナとは何か」


突然黙り込んだ優太を訝しげに見たアリスティアだったが、優太の表情から自ずと答えに辿り着いた事を読み取り、気分を良くして得意顔で答えた。


「そなたも理解したところで今一度名乗ろう・・・今度こそ覚えるのじゃぞ?わらわは、アリスティア・トラネス・イリアメント・セラフィリアス。この世界とは異なる世界、イシュリナに在る一国、セラフィリアス王国の第3王女じゃ」


「この世界と異なる世界・・・」


「そうじゃ、わらわは、この世界の者ではない。他の世界の者なのじゃ」


異世界から来た。

普通なら冗談だ妄言だと笑って、一笑に付す類の話だが、優太は少女が地球外の存在である可能性を推測していたので、同じように笑い飛ばす事もなかった。


「・・・異世界人か・・・」


「む、なんじゃ、先程は絶句しておったのに。もう驚かんのか?」


「ん?いや、今でも・・・驚いている。ただ、まあ、予想もしてたから、ちょっとは落ち着けてたからかな。それに何か・・・予想はしてたけど現実味がないというか・・・異世界の姫と言われても、俺の持っている常識の範疇を超えていて、いまいち理解が追い付かないんだ」


「この程度の事で範疇を超えるとは。そなたの常識の範囲は狭過ぎるのう」


「いや、この世界に住む人にとっては、異世界なんて誰だって範囲外だから。それと、どうも君は異世界人って感じがしないんだよな。言葉は通じてるし、見た目は外国人っぽいし。服装には驚いたけど・・・まあ、外国人コスプレイヤーと言われれば納得できるしな」


「こすぷれいやー?この公園に辿り着くまでにも、わらわを見て、そなたと同じ事を言う者もおったが、いったい何の事じゃ?」


「あー・・・要するに『ごっこ』遊びの事だよ。自分のなりたい者の衣装なんかを着て、その者になりきるんだ。たぶん、君の場合は『お姫様ごっこ』に見えたんじゃないか?」


「ご、ごっこ!?わらわは本物の王女じゃ!!うぐぐ・・・く、屈辱じゃ・・・この気高く美しいわらわの王女姿を『ごっこ』呼ばわりとはぁー!」


「・・・」


少なくても今、コスプレイヤーの意味を知り、顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる姿は、気高く美しい王女とは程遠いなと優太は思ったが、口にすると噛み付いてきそうなので心の中で呟くにとどまった。


「あ、あー・・・そんな事よりも、君は何で日本語を話せーー」


ー くぅ~・・・ ー


「・・・・・・・」


下手に慰めても八つ当たりされそうなので、さっさと本題に入ろうと優太は少し強引に話題を切り替えたが、の途中でアリスティアの方から・・・より正確には彼女のお腹の辺りから、可愛くも間の抜けた音が鳴った。

優太が反射的に口を閉じ、アリスティアの方もお腹が鳴った直後にピタリと動きを止めた結果、不自然な静けさと気まずい沈黙が訪れる。


しかし、優太は知っている。

自身の右手に打開策が握られている事を。


「すごい音だな!お腹減ってたのか?これでも食べーー」


「少しは気遣えアホー!!」


ー バキッ! ー

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