音楽、映画、美術、舞台、食事、文学、観光についての体験感想文集
7月23日(金) 広島市東区東蟹屋町にある広島市東区民文化センターで「吉見友貴 東区民文化センタースタジオピアノ披きコンサート」を聴く。
7月23日(金) 広島市東区東蟹屋町にある広島市東区民文化センターで「吉見友貴 東区民文化センタースタジオピアノ披きコンサート」を聴く。
広島市東区東蟹屋町にある広島市東区民文化センターで「吉見友貴 東区民文化センタースタジオピアノ披きコンサート」を聴く。
ピアノ:吉見友貴
メンデルスゾーン:無言歌集より 1曲
ハイドン:ピアノソナタ第60番 ハ長調
アルベニス:イベリア第1巻
フォーレ:ヴァルス=カプリス第1番 イ長調
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ 変ホ長調
アンコール
シベリウス:「樹の組曲」より樅の木
???
東区民文化センターに「吉見友貴 東区民文化センタースタジオピアノ披きコンサート」を聴きにいった。これは実力あるピアニストがこの施設にあるShigeru Kawai グランドピアノSK-6を使用して演奏するシリーズで、前回の小林愛実さんは広島ではなかなか聴く機会のない質の高いショパンを見事に弾いていた。
今日は若い吉見友貴さんの演奏で、チラシを見るとモードを生み出す韓国の若いダンスアーティストのような風貌だが、実際に目にするともっと表情は柔らかく、笑顔は特定の女性ファンを生み出すであろうかわいい顔をしていた。
ハンサムと言えば死語になるだろうか。イケメンと呼ぶべきピアニストは若い演奏家特有の高い技術を披露して、全曲暗譜による運動神経と力の走った存在感を見せた。
まずメンデルスゾーンの無言歌集から1曲が演奏され、古典派とロマン派の中間のイメージの作曲家は、音が無垢に感じるほど軽い空洞を持っていた。これを若さと呼べば間違いになるようだが、他のピアニストの演奏イメージを持たない自分としては、あどけなさにも感じる素朴な音のつながりは古さや熱っぽさとは無縁だった。
自分にとってハイドンほど知らない作曲家はいない。室内楽でも聴く機会のある音楽家は、今日も自分に謎をかけるようだった。子供の遊戯のような軽快な音が走るものの、ときおり陰ってはすこし薄暗い旋律が流れたり、明暗が入れ替わるハイドンらしさといえるのかもしれないが、モーツァルトとは異なり、当然バッハではない作曲家の曲は軽いタッチで、つかませる前に走り去った。
アルベニスのイベリアを生で聴けるのはうれしいことだ。今までと明らかに変わった音色はスペインの風を感じる。フランスの風といえば北部と南部でだいぶ様子は変わるが、スペインとなるとサハラに近い乾きを持って一定するようだ。湿気のない憂いが重奏に響き、アラベスクな模様を旋律とリズムで描き出す。フランスらしいみずみずしい高音が連打されても、やはり元の色が異なり、理知に頼らない感情の分裂は強い光の明暗の最中で冷静を保って気持ちに揺れるようだ。特に第3曲のセビリヤの聖体際はホアン・ミロの絵画に見られる凶暴がつまった幼さのような音が跳ねるが、感情は一気に吹き荒れて音は上下し、迫力のある演奏をみせていた。
休憩を挟まずフォーレが演奏されると、奇想的な曲にナイーブなフランスの作曲家のイメージは合致しなかった。まるでショパンのように休まず目まぐるしく、強い響きは様々に展開をみせながら、やや単調な音量も感じた。
そしてショパンの曲になると、最前の一つ後ろに座ったせいか、音の大きさが目についた。楽器としてのピアノの違いはあっても、演奏家の個性が持つリズム感やタッチは異なり、見栄えする身形は時に内面と一致して音楽に表れる。派手ともいえる表現の広い曲の方が合っているのかもしれない。それほど運動性に優れた指の動きは、ショパンを軽々しく弾きこなすようで、パッションは時に一面的な姿をみせていた。やたら揺らしたり間をとったりするのは本人の性質に合っていなければ奇矯な作り物に聴こえないことはなく、そのような作為はなくても、技術と能力の高さが演奏の先に走るような印象を覚えた。年寄り臭い深みや痴呆な純粋さを求めるわけではないが、より率直に剥けた心を感じるパッセージなども聴きたいと思った。とはいえ休止に挟まれての和音にはメッセージがたしかに響いていたので、若いピアニストだからこその粗探しのような感想ともいえる。
アンコール1曲目はシベリウスの樅の木」、特に好きな作曲家として特別な位置を持つフィンランドの音楽家の心は、交響曲や管弦楽のような鬱然とした色は見えなかった。暗澹として未来に希望のない荒涼とした自然はなく、もっと心優しい詩として音楽が流れていた。そしてアンコール2曲目は題名の知らないジャズらしい音楽で、若さと華やかさを持つピアニストにぴったりの演奏だった。
中年男性はすぐに若い者に文句を言うからどうもしようがない。しかし11時半の公演のあと、14時半からも演奏するハードな内容となっていたので、暗譜でこの分量をここまで弾きこなすのだからさすがの実力だ。技巧と早弾きがほとばしる演奏家は、キラーヒールの女性ピアニストをつい連想してしまった。柔らかさはあっても丸さはまだない。これからいかに磨かれていくか楽しみなピアニストだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます