5月4日(火) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで田坂具隆監督の「海軍」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで田坂具隆監督の「海軍」を観る。


1943年(昭和18年) 松竹(京都) 112分 白黒 35mm


監督:田坂具隆

原作:岩田豊雄

脚本:澤村勉、田坂具隆

撮影:伊佐山三郎

音楽:内田元

出演:山内明、志村久、滝花久子、長尾敏之助、風見章子、小沢栄太郎、近松里子、青山和子、東野英治郎、笠智衆、寺田晴彦、小杉勇、水戸光子、嵐寛童、島田照夫、梅村蓉子


この作品の企画は海軍省報道部で後援も海軍省がしているだけあって、娯楽映画とは異なる重厚で厳粛な構成となっている。先月末に連続上映されたスケールの大きな田坂監督は、派手な銃火気を使わずに海軍の威光を描いており、繰り返される東郷平八郎元帥の墓への参拝や、英霊たる海軍将校の書画や自画像を画面に組み込んでいる。


自分がたまたま江田島の旧海軍兵学校と知覧特攻平和会館を見学した経験を持っていたので、桜島の偉容を背後に成長する主人公の姿と神殿のような兵学校の映像などは、その時に説明を受けた後輩たる引退した自衛官の言動と昔話が思い出され、そのまま警察にも引き継がれている軍国主義日本の伝統と威儀は画面に隙を与えずに統制をとり、極度に畏まった文言の聞き取りづらさと格調を耳にしていると、「死んでも勝つぞ」と部下を鼓舞して、実際にボートレース直後に力尽きる兵隊が物語に現れて賞賛されると、これぞ大和魂として心身を極限まで鍛え上げる昔の根性が想像通り一致する。


自分が勝手に持っている田坂監督の大多数の扱いはこの作品にもあり、学校での整列シーンや、ロングショットで映す兵学校での輪になって動く画面などは、やはり圧倒的な威力を持っている。しかし映画そのものは地味で厳かだからこそ退屈な連続となっており、演劇的な技巧よりもドキュメンタリー性と歴史勉強を促す海軍の思惑がそのまま作品に表れているので、田坂監督がどのような状況で組み上げたか考えてしまう内容となっている。


桜島を含めた青年の成長の描き方は地道で、東野英治郎さんや笠智衆さんの先生役などの味わいもあり、歯並びの悪さに昔の地方のお母さんらしい思いやりがある瀧花久子さんもズームで心情を内に閉じ込める表情を映しているものの、監視されたような物語運びは海軍が睨みをきかせているので、暗さや苦労を表沙汰にせずに軽々しい調子を打ち消し、新聞の報道を組み込んだ編集や国際条約を脱退した日本の状況の説明など、物事の一面を考えさせる貴重な資料が置かれていて、英語の学習についての先生と生徒の答弁などは、そのまま海軍の視点が口を開いているようだった。


気軽に楽しめる映画ではないが、終盤に向けての構成は映画制作らしい技術が盛り込まれており、海軍士官の成長過程に真珠湾を視察した際に、海面にシルエットをさらす魚影に画面を当てるシーンは、後に魚雷に続く暗示を想起したが、それは潜水艦に乗ってハワイを攻撃するクライマックスに引き継がれる。そのあたりに映画作品として楽しむ外せない要素はあり、ありきたりかもしれないが、1943年制作という終戦2年前の時期を考えると、想像はいくらでもかき立てられる。


今回の上映はラストが欠落していて、実際の映像らしい海上に戦艦の煙が棚引く画面が登場して長く引き継いできた成長映画の締めを期待させる所で、編集は突然終わってしまう。海軍将校として育ってきた青年が、真珠湾攻撃の最中にあって、どのような感慨を持つのか非常に興味深いところだが、そこが紛失しているあたりに海軍の関連と戦後の日本の姿勢を考えてしまう。


先月から音声映画に育った日本映画史の産声を観てきたが、最近はまるで8月に上映されるような戦時中の視点が作品を描いていて、とても勉強になる今日の映画だった。

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