4月22日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイングマール・ベルイマン監督の「鏡の中にある如く」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイングマール・ベルイマン監督の「鏡の中にある如く」を観る。


1961年 スウェーデン 89分 白黒 Blu-ray 日本語字幕


監督・脚本:イングマール・ベルイマン

撮影:スベン・ニクビスト

音楽:エリック・ノードグレーン

出演:グンナール・ビョルンストランド、マックス・フォン・シドー、ハリエット・アンデルセン、ラルス・パッスガルド


タルコフスキー監督の「サクリファイス」を思い描く内容だった。具体的な連関は見つけられないのだが、限られた範囲内でやりとりされる家族の関係図と、主題に神と愛を扱う世界観の大きさに、次第に高ぶっていく娘の狂騒ぶりがそう思わせたのだろう。


わかりやすい起伏と起承転結よりも、人物のナイーブな感情の掘り起こし作業は、発音からするとゲルマン民族らしいイメージを持つスウェーデンという国よりも、ロシアやポーランドに近いスラブ民族的な感傷の細やかさを持っているようだ。陽気に支配するイギリスやアメリカではなく、どうしても洒落気が走る知性ある台詞や甘ったるい男女劇のフランスでもなく、夏の夜がやけに長い北欧の気質を持った静けさがたゆたうようで、ワンショットごとに厳格な構図があり、鮮明で美しい明暗が人物の表情を透き通すように捉えている。


父親、息子、娘、その夫との四角の関係を、それぞれの科白で玄妙に紡いでおり、茶目っ気や愉快な面も幾分表されるが、焦点とされるのは現代的な個人の内面となっていて、息子は父親への距離感、娘は語られない病名による不治の病を根に置いた生の苦悩、父親は仕事と家庭の比重に作家という職業の非人間的な観察が悩まされ、夫は妻への愛の真偽など、こう書いておきながらどれも真実に思えないような、繊細で複雑な人間感情が多様な演出で示されている。


少ない登場人物に狭い舞台設定の中で、むき出しのやりとりにこちらの神経も時々参ってしまう。リラックスして楽しめる作品ではなく、観る者は緊張を持って照らされる表情を追いながら、時に遠近を持った画面の中で元気に娘と息子が走ったり、桟橋を遠くに観ながら船出を見守ったりするが、基本にあるのは鬱屈した内面を持ったままの人間のやりとりとなっている。それらが一貫したリズムで細かに編み込まれながら物語が進み、クライマックスに相応しい廃船を舞台に背徳が吐露され、部屋に場面が移ればあまりの演技にこちらも神経が狂いそうになるハリエット・アンデルセンさんによってカタルシスが起きる。


昨日に観た「魔術師」と異なり、ユーモアをだいぶ抜いた真摯な語り口となっていて、詩的な台詞まわしも皮肉ではなく、訴えに近い心情が吐き出されている。そして役者の演技は誠実で見応えがあり、鏡を代表にした屋内の調度品や壁を使った室内のフレーミングはどれも美しく、演劇的な構造を持って、重たいが綺麗に透くように映画は構築されている。


何か結論や理解が起こることはなかったが、どことなく心に染み入り、数時間にわたってしめやかな感情が余韻を残すようで、今思い出しても、とても良い映画だったと思い返される作品だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る