4月19日(月) 広島市中区本川町にあるラピスギャラリーで「遠く夢の記憶 ayum作品展2021」を観る。

広島市中区本川町にあるラピスギャラリーで「遠く夢の記憶 ayum作品展2021」を観る。


「ラピスギャラリー」さんで展示があるので、毎度のごとく仕事帰りに寄って「遠く夢の記憶 ayum作品展2021」を観た。


近頃は各ギャラリーの特徴をどことなく感じていて、自分にとって「ラピスギャラリー」さんはハンマースホイの作品のような慎ましく、茫漠とした雰囲気を感じることが多く、鮮烈で明朗な色彩よりも、古風な掠れや経年による風化などのマチエールから時を観させてもらえる印象がある。


今回展示されているayumさんの作品はまさにその印象を重ねて代弁するようで、旅行すればモダンな建築に目が向く前に、古くからの生活が染みこんだ漆喰の剥げや、ニスが落ちてツヤよりも老化した木材の味わいや、適当に塗られてムラと気泡の含まれたペンキ痕などに惹かれるような人にこそ喜ばれる内容となっている。


説明を受けたとおり額縁の存在が圧倒的だ。ただし作品に勝って威容を誇るのではなく、あくまで作品の連帯としての肌合いが同調しており、木材やコンクリートだけでなく、赤銅に見える古い食器の質感や、皿のような肌と色の組み合わせなど種類は様々にあり、このコレクションだけでも見応えのある展示になっている。


水分の抜けた植物も組み合わさり、上下と遠近を含めた展示の空気感は実に見事だが、やはり額の中にある作品が良い表面を持っている。版画の持つしんみりした遠近感があり、建物の形象からは原初キリスト教会の持つ素朴さと厳粛さが残っていて、“icon”という作品だけでなく、その時代のフレスコ画を想起させるベタ塗りとひび割れが、冷たいからこその時の風合いを感じさせる。特に黄色の発色に目を引き、単純に青色との隣り合わせだけで楽しめるが、そこに質朴な白い建物が建つと、やはり時の持つ宗教性を感じてしまう。


とはいえ一人の人物が町を歩き、決して賑やかではなく、孤独と魂の彷徨も感じるだろう。見方によっては暗く、仲間と派手に盛り上がる陽気な夢よりも、出口のない世界でいつまでもさまよい続ける永続性と閉塞感の中で、何かを探し続ける自立した世界の立脚もある。ハンマースホイの作品にも感じる朧気だからこそ明確に受ける印象を言葉にするなら、浮遊感や幻想感で、それは幽霊のように儚く寂しげで、ひっそりとした寂寞な精神の静けさだろう。それらの作品は、声を大にして歌う詩よりも、声に出さずに読み進める慰めの本のようなイメージだ。


額縁と作品のマチエールはアンティークの性格を持っている。小さなオブジェは触ることもできて、木材に塗られた石膏色の建物を手に持って宙に掲げれば、部屋にどれほどの心をもたらしてくれるか目に見えるようだ。


そんな素敵な「遠く夢の記憶 ayum作品展2021」のわずかな断片だけを申し訳なく盗むように、ひび割れたポストカードを購入して家に帰ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る