4月18日(日) 広島市中区東白島町にあるイタリア料理店「PERÓ」でディナーする。

広島市中区東白島町にあるイタリア料理店「PERÓ」でディナーする。


今日のイタリア料理という予定に音楽が添付される休日で、広響によるレスピーギのローマ3部作を聴いてから、前回一人でランチした「PERÓ」さんでディナーを味わった。


ワイン2本、テーブル席に4名、コース料理は4皿、会食時間は2時間30分というすっきりした内容で、食べ過ぎ飲み過ぎ、滞在し過ぎの不作法をすることなくスマートに食事した……、とはいかず、いくぶん喋りだけ過ぎてしまったようだ。しかし自分の範疇の中での限度越えで、おそらく今夜のように盛り上がる会話こそが普通に近いのだろう。


そんなわけで科学者のように目をつぶり、眉間に皺を寄せて味わう真似よりも、飛んでくる話に意識を奪われながら食べたので、観察や分析よりも、食事の基本である美味しい料理に歓声をあげながら、それぞれの日常の話題を交わし、時には自分で押し殺していた感情をほじくられて、ついつい負の言葉を口にしてしまうこともあった。とはいえそんな言葉でも笑いに包み込んでくれるのが、楽しい食事の持つ不思議な作用だろう。


ピンクのスパークリングワインは炭酸が多めにあり、チェリーのような香りに口当たりの賑やかな発泡が来て、気泡の落ち着きに伴ってほんわかした淡い果実味は広がった。


前回はラムチョップを貪った記憶を持っていたので、今回は肉の直撃よりも、細かい食材が効果的に使用された胃腸に負担のかからない料理となっていたので、先入観との差違を感じた。それを今日の音楽の印象に結びつけると、ヴェルディやプッチーニのような濃厚で大仰で、時に単純に突き抜けて歌う音楽よりも、フランスの色彩を感じるレスピーギに固定観念として持っているイタリアが見えにくいように、ハムやチーズだけでなく、魚介類も含めた食材に素朴で強い主張を持たせるフォルクローレよりも、繊細に和らいで分化した素材への新しい目線を感じるようだった。海外から食材を取り寄せて他国の料理を再構築するよりも、地元の食材を活かすというどの国のどの土地でも行われている基本が、イタリア料理の調理方法によってアイデアは活かされているようだ。


サラダは運ばれた瞬間から赤のナチュールワインのような香りが放たれていて、口にするとにその紫色の芳香は隠れるように「ECO360」さんのマイクロリーフのフレッシュな酸味に同化してしまった。底にある大豆もつるっとそのまま「どうじょうや」さんの味が光っていた。


黒豚の自家製ハムは鮮烈に響かせる味わいよりも、わりと控えめにどしっと構えた印象で、脂、外側、内側と部位によって細かく味は分かれるらしく、そこに水牛モッツァレラチーズの白さとコクにいちごの甘みと酸味、そして塩が加わると、やはりイタリア料理の技法にフォークとナイフはとろとろ食べてしまう。そこに明るく澄み澄みとしたオリーブオイルを含む外側のかりっと焼けるブラウンなフォカッチャを合わせると、もう納得の組み合わせだった。


タイラギ貝はおそらく初めて食べる食材で、身の締まった噛みごたえは貝柱のようで、次に開けた白ワインの秋らしい黄色い陽光と彩りを感じるとても朗らかな味に合わせると、レモン色の柑橘の酸味や、新鮮な潮を持つひじきの旨味と風味がまるでイカスミのような比重で加わり、会話の波の中でどっちつかずに溺れるようだった。


そして新玉ねぎと自家製ベーコンのラグーオイルソースのパスタは、カッペリーニかフェデリーニか、どちらかわからない細さにしゃんとした芯が残り、濃さやしつこさではない野菜も肉も含めた大きくて優しい滋味がたっぷり膨らんでいて、さっと食事を締める重さのない鷹揚な厚みを感じる料理だった。


そして生地がほろほろと口にこぼれる密度の柔らかいトルタ・ディ・チョコラータを食べて、イタリア料理らしくコーヒーの澄んだ味わいできりっと食事は終了する。


コース料理には選べる料理がまだまだたくさんあり、和牛トリッパの煮込みをはじめとして地タコのオイル煮や水イカとアスパラのグリルなども控えているので、今日の夜はステレオタイプの思いこみによるイタリア料理らしいストレートで粋な組み立てよりも、細やかな香りや酸味に丁寧でしつこくならない味の重ね合いだったので、間違いなく「PERÓ」さんの一面をすこし触れただけに過ぎないだろう。それにレスピーギの曲はルネサンスらしい個人の目覚めが吼えるイタリアよりも、歴史的風景のなかに住んでいた多数のイタリアがあり、所々に伝統的な純朴さが旋律に表れていた。そのようにパスタのソースやチーズの扱いなど、「PERÓ」さんの料理には中華同様に括れない歴史深い国のエッセンスが存在していた。


次訪れる時はもう少し幅と奥行きを知るために内蔵料理に目が向くだろう。もたれもくされもない、日曜の夜に相応しいすがすがしさの残った会食だった。

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