4月1日(木) 広島市中区流川町にある自然派ワインと料理の店「nature wine&pub under」で飲んで食べる。

広島市中区流川町にある自然派ワインと料理の店「nature wine&pub under」で飲んで食べる。


朝から追われ、忙しく動いた夜になぜか予想外に時間が空いたので、「nature wine&pub under」さんにいると聞いて足が動いた。バスマチでの一杯と些末な日常の摩擦がそうさせたのだろう。


入店して白ワインを注文した。たいてい赤ワインに目を付けることが多いので、何も考えない反射の酒選びは、季節によったのだろう。ヴェルシュリースリング品種の味は、梨や桃を想起させる繊細で穏やかな味わいで、赤では血の気が強く、疲れを浄化させる味を求めていたのだと判断をつけてくれるようだ。


生ホタルイカ・ブラッドオレンジ・パプリカソースは、一杯飲んできたとはいえ自分の味覚では追いつけない味わいだった。特にソースは濁らないのだが甘みや酸味など複雑に絡み合い、パプリカの良い風味はわかるのだが、あとは舌の乏しさを痛感させる未知の味が奥にあるようだった。ホタルイカも生だからこその食感が外套膜にあり、ふっくらよりも平たく口の中で噛まれて、ブラッドオレンジも合わさると洗練されたフランスのケーキのように効果的な反応が生まれて、果実と魚介それぞれの瑞々しさが透明な甘さで口に広がった。


次に鹿ボロネーゼのペンネを食べると、鶏とも豚とも異なる赤みを持った風味はクセがなく、さっぱりと食べられる。たっぷりの挽き肉はペンネと絡み合い、ギトギトすることなく赤ワインを欲しがらせる。


力強いタンニンを感じるのは酔いのせいかもしれない。Raul Perez "LE BATARD CEBREROS"のガルナッチャの赤を飲み、ふっくらふくよかなブリオッシュ・ボッティエバター・アンチョビをすぐに食べきる。塩味とバターのコクにパンは加わり、熱に膨らんであまりにも華々しい。


前回来た時に食べた窯焼きバスクチーズケーキの味は当然のように美味しいのだが、パッションフルーツをのせたバニラパンナコッタの味わいが強烈だ。すり胡麻のごとくふんだんに使われたバニラビーンズの香り高さに、とろっとした膜を持つ酸味の粒がエキゾチックに破裂して、パンナコッタは平然と味を保って染色される。そしてオリーブオイルのアイスクリームは決して渋いわけではないのだが、甘さを押さえたアロマティックな味わいは粋な素顔として男前だ。


働く姿を観ていて、質が異なるのだと単純に驚かされた。広くない店内でこれだけの質と量を持ち、ほとんど食べていないから知らないのだが、幅の広さはメニューの種類からも感じられる。そして間違いなく、どれも凄い美味しいだろう。


手の込んだ西洋料理を食べた経験がわずかということで、新鮮な体験としての味わいと感動があるにしても、食の世界は恐ろしい。上に行けば行くほど金額は膨れ上がるラグジュアリーな世界だとしても、どれだけの質と奥深さがあるのか。


それに比べて、芸術はもうすこし近づきやすい金額にある。所有ではなく観るだけなら絵画はそれほど高くならない。機会と移動を考えれば高くつくが、良い作品はひろしま美術館にも揃っている。音楽や劇も団体と席によって高くなるが、ウィーンフィルの来日などを除けば……、文学が最も手身近で、たやすく理解され難いだろう。


「nature wine&pub under」さんはオペレーションから並ではなく、味に見合う金額としては優しく、上の世界を仰ぎ見させてくれる質の高さだった。

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