3月19日(金) 広島市中区八丁堀にあるYMCA国際文化ホールで「The Treasure by Josei&Shara」を聴く。

広島市中区八丁堀にあるYMCA国際文化ホールで「The Treasure by Josei&Shara」を聴く。


ピアノ:丈青

ドラム:Fuyu

ベース:秋田ゴールドマン

ヴォーカル:佐藤いより/Shara

フルート:太田和孝

ヴォーカル&ブルースハーモニカ:中村正月

サックス:清水末寿


普段ジャズのライブに行くことはなく、誰かに誘われて足を運ぶ以外に生で聴くことはない。それでも10代終わりの気取りで聴くようになって、スカパーのミュージックエアでモダンではないフュージョンを聴いたりと、わからないながら耳を向けていた記憶が蘇る。


今日のライブに登場した中村正月さんは、老人には3つの禁止があり、説教、自慢話、そして昔話、と語っていたが、どれも程度と反復を越さなければ面白いので、働き盛りの人に多い同僚の噂やねちねちした愚痴なんかよりも聴き応えはあると思ってしまう。それでも自分は、自慢と思わない自慢だけでなく、とにかく昔話が多いから言動を振り返ってしまった。


誘われて珍しくジャズライブに足を運んだ理由の一つにSOIL&"PIMP"SESSIONSの名前がある。2000年代の前半に中期旅行から帰り、町田のヨドバシカメラで安くないイヤホンを購入した際に店員さんに最近のジャズを尋ね、SLEEP WALKERとSOIL&"PIMP"SESSIONSの名前を教えてもらった。結局スウィングをすこしとビバップやハード・バップが中心の好みとなり、教えてもらった日本人ジャズバンドは聴かなくなってしまったが、今夜はそのメンバーである丈青さんと秋田ゴールドマンさんに、Fuyuさんも加わったスピーディーな音楽を生で聴くことができた。


第1部はトリオが3曲演奏して、快速の音にシャウトしたり緩急にステッキを持ち替えるようなグルーブを感じた。てっきり若い客層だと思っていたら広島市民劇場に近い年齢層となっていて、若者が好みそうな音の走りと聴衆の差異を不思議に思っていたら、丈青さんのお母さんである佐藤いよりさんが登場して、ジャズの雰囲気はぐるぐると時計の針が回されるようになり、出演者と聴きに来る人達がようやく一致した。普段接しているクラシック音楽に比べるとやや声量は抑えられているが、どんな歌にも共通するのは音量の大小ではなく、どんな心が表現されるところにあり、派手にならない低い声などにアフリカをルーツにした人種特有の性質が、アメリカの都会の中で生きて明るくならない哀愁を持っているような気もした。こんな時に錯覚させるのはガーシュウィンのオペラ「ポーギーとベス」の舞台の映像で、虚構の劇の人物達ではあっても、あのような人々の生活から生まれた音楽だと連想された。


続いて中村正月さんが登場すると、伊達な風貌ににんまりしてしまった。ブルースハーモニカ二種類の音色は演奏技法の多彩によって気づけないほど豊かで、味を持った歌声はいいタイミングで合わされると、ぞくっとくる一コマとして会場に響き、前後の世代の違いがそれぞれ階層の異なるグルーブを生んでいた。


第2部は自分好みの内容となっていた。やはり華であるサックスが入るとバンドに歌声が加わり、さらにフルートも入ると中南米あたりの遠望な雰囲気も加味されると、個々のアドリブとテーマの一体感の流れが生き物であることを強く感じさせられる。クラシック音楽では決して味わえない演奏者のフィーリングが会話する豊かな表現は、サーフィンにおけるライディングと同じようで、与えられた波でも時間でも限られた枠の中でアドリブされ、互いの腕前を競うように盛り上がっていった。


そして再び佐藤いよりさんが加わると、昔はジャズ・ヴォーカルはそれほど好みではなかったが、やはり歌は人の記憶がそのまま宿っているので、曲紹介で情景を与えられると、わずかに聴き取れる英語の歌詞を勝手に解釈して、ステージの照明と音楽の一致によって想像力は膨れ上がる。声量もより大きく存在感を増し、Soul Shadowsは素晴らしい展開をみせていた。


チラシに書かれていたとおり、古き佳き時代、モダンジャズ、新しい世代の名曲が演奏されていた。曲の間の丈青さんと佐藤いよりさんの親子の会話のずれがとても楽しく、夫婦でも親子でもそのままの言葉の意味がまるで伝わらない時があるとつい頷いてしまった。情愛の深い母子を中心としたステージに足を運んだ観客は年輩が多くも若い人もちらほらとあり、さらに若い子供二人も素直な反応で音楽の中にいた。脈々と受け継がれていく広島を根にしたジャズの思いが、そのままWaltz for Debbyに歌われていた素敵なライブに、40歳手前の年齢に昔話はもっとやめられなくなるだろうと思い、それこそ歳を取ることの喜びの成果だと、タバコのように煙たがられる話を燻らしていくのだろう。

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