3月18日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでルイ・マル監督の「五月のミル」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでルイ・マル監督の「五月のミル」を観る。


1989年 フランス、イタリア 108分 カラー DVD 日本語字幕


監督:ルイ・マル

脚本:ルイ・マル、ジャン=クロード・カリエール

撮影:レナート・ベルタ

音楽:ステファン・グラッペリ

編集;エマニュエル・カストロ

出演:ミシェル・ピコリ、ミュウ=ミュウ、ミシェル・デュショーソワ、ドミニク・ブラン、ハリエット・ウォルター、ブルーノ・ガレット、フランソワ・ベルレアン、マルティーヌ・ゴーティエ、ポーレット・デュボスト、ロゼン・ル・タレク、ルノー・ダネール、ジャンヌ・エリー・ルクレール、エティエンヌ・ドラベール、バレリー・ルメルシェ、ユベール・サン・マカリー


日常において緊張に縛られた日々から抜け出せない時に観たい映画だと思った。五月革命という国の動乱の最中における地方への影響を知的ユーモアで描いたこの作品は、砂糖やガソリンなど物資の欠乏なども加え、ラジオ放送や集まりの中での意見交換も含めてタイムリーにその当時の情勢を映しており、富裕なる母の死によって集合した親戚達の思惑の中で、葬儀屋もストを起こして亡骸を運べないという笑えない事態をおおいに笑わせてくれる。


まずクラシックな深みのある画面の色が良く、各ショットの構図は厳しい等間隔で統制されることのない自然な風趣を持った穏やかなものとなっている。それはとある映画のラストシーンで昔の葬式は美しかったとシャンソンされる世界であり、解体される富豪を主題に懐古と進歩が扱われるものの、そこに血なまぐさい対立はなく、むしろ印象派の絵画に描かれるような草上の憩いや、夜の楽しい歌と踊りで庭と家のある生活が讃えられている。


この映画は古き良き時代を懐かしむ風情が大切にされていて、演劇らしい人物の動きや台詞回しだけでなく、突発的に感情のぶつかり合う場面の挿入など脚本そのものが劇としての基本構造をもっているらしい。特に各登場人物の浮き彫りに生彩があり、特徴的なクセのある明らかな性格を持った人物達は、フランス古典戯曲に感じる抜け目なさと親しみやすさを持ち、ささいな演出で心の内から笑いをもたらしてくれる。


五月危機がターニングポイントとなって世界をいかに変えたかはその後に生まれた自分には体験としての理解はないが、動乱と欠乏という国の再生に向かうマグマのような奔騰は数年前のアラブ諸国の革命も似たところがあるだろうし、今のウィルスに翻弄される世界の意識変化も同様のことだろう。それでも人々は変わらず、互いに愛し合う人を見つけて触れ合い、それぞれの個性のまま和を結ぶ姿は細かいショットに手抜かりなく分化されている。


ひさしぶりに素直に嬉しい映画作品を観ることができて心持ちが朗らかになった。また再会したいと思わせる各登場人物の中でも、今回の特集となっているミシェル・ピコリの役柄は、決して失われないフランスの気風がそのまま人間としてあり、笑いと涙がいかなものかと人生における理想的な姿勢を吹き込んでくれる。

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