3月17日(水) 広島市中区中島町にある広島国際会議場フェニックスホールで「広響名曲コンサート 音楽の花束 春」を聴く。
広島市中区中島町にある広島国際会議場フェニックスホールで「広響名曲コンサート 音楽の花束 春」を聴く。
指揮:沼尻竜典
フルート:高木綾子
コンサートマスター:佐久間聡一
管弦楽:広島交響楽団
モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲 K.620
モーツァルト:フルート協奏曲第2番 ニ長調 K.314(285d)
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲
アンコール
グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」~ 精霊の踊り
今日の広響名曲コンサートで自分の予定する今期の広響の演奏会は終了する。昨年の春の終わりから延期して最後に聴くことになった今日は、珍しく夜のフェニックスホールでの演奏となっていたので、暖かな陽気は平和公園一杯に広がっているらしく、すぐに入場せずに平和記念資料館を中心に景色を眺めていると、仕事帰りや散歩など思い思いの人々が交差してとても調和した情趣になっていた。
たまたまかもしれないが最近の演奏会の流れを汲むプログラムとなっており、前半はモーツァルトだが、後半はリズムと色彩が前面に生動するフランスの作曲家となっていた。
沼尻竜典さんの指揮は明確なスケッチで音を構築しているようだった。今期は1階席最前列で聴く機会が多かったせいか、この会場の1階真ん中に座っていると音がやや遠く、包まれるよりも自分の感じる空間の向こうで音が留まっている印象だった。ここに来るたびに音の反響について感じてはいるのだが、今日はより前の席に座るべきだと改めて思い知った。
それでもモーツァルトの序曲は決して小さくなかった。劇の始まる前の期待感を盛り上げる効果をそのまま持ち、演奏会用だからといって目立って劇的になるのではなく、見えない前に大きな舞台と幕があるような活力に満ちた演奏だった。
高木綾子さんによるフルート協奏曲は花の入り口の季節にこれまた合う清涼感が流れていて、弛緩した心と体は微睡みの中で音楽を聴いていた。今日の午前は暖かさに触発されて泉鏡花の「春昼・春昼後刻」を思い出し、内容としては後半のドビュッシーの曲に作品イメージは合うのだろうが、その言葉だけの印象から感じる春の夢見心地の最中にいた。澄んだ音色は綺麗な磁器のように鮮明に輝き、円らな小鳥が濁らない声で軽快に響かせるような美しさがあり、初めて小鳥らしいさえずりを生の音楽で聴くようにリラックスしてしまった。
後半のドビュッシーは好きな曲だが、すぐに音響が気になってしまった。前はいつ聴いただろうか、もっと曲の雰囲気そのものに包まれる感覚を望んでいたので、生身の肉体と意識は音の外部にいるような聴こえ方が気になったものの、音の出し方はとろとろしたところがなく、明確な描線で音が刻まれ、フランスらしい、ドイツらしい、などのこじつけではなく、言葉に乗せた詩情でもなく、音楽そのものが詩となって音色は流れていた。特に管楽器の和音と音量に心は惑わされた。
そして昔は好きで今はほとんど聴かなくなったラヴェルのダフニスとクロエは、小品のイメージばかりの作曲家の中でもスケールの大きな曲らしく、ひさしぶりに生で聴いて興奮した。ディアギレフとバレエ・リュスの関連するストラヴィンスキーのように音彩とリズムに陶酔される曲は、目にも鮮やかな音のタッチが現出されていた。ホルストの「惑星」のようにつかみやすい夜明けの光景は荘厳かつ雄大で、憂いと幻想を持ったフルートが奏でられると音の色は自由に生起して移り、全員の踊りではラヴェルの持つ和声が豪快なリズムで炸裂する。沼尻さんのオーケストレーションは鮮明なダイナミズムで盛り上がり、長々と曲に引き込まれるのではなく、音の生成に一気に奪われる瞬間があり、弦の響きも、管楽器の色合いも、そして打楽器の音量も箱から光が虹色に噴出するように調和していた。
アンコールは高木さんが声楽としてのフルートで歌い、宗教音楽のような清澄な音に安らぐことになった。
会場がつい気になってしまう音楽の花束だが、編成の大きな曲ならば問題なく音の存在を楽しむことができると毎回気づかされる。少し前にテレビで観た我が街の楽団に登場する指揮者が季節によって入れ替わり、それぞれ特徴を持った音楽をいつも味わわせてくれる。高木さんがオーケストラにも混じって演奏された今日の音楽は、すこしあわただしくも愉快な沼尻さんの姿も含めて、とても和んだ夜の時間になっていた。
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