2月13日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで熊井啓監督の「千利休 本覺坊遺文」を観る。
広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで熊井啓監督の「千利休 本覺坊遺文」を観る。
1989年(平成元年) 西友 108分 カラー 35mm
監督:熊井啓
原作:井上靖
脚本:依田義賢
音楽:松村禎三
撮影:栃沢正夫
編集:井上治
美術:木村威夫
出演:奥田瑛二、三船敏郎、萬屋錦之介、加藤剛、芦田伸介、上條恒彦、内藤武敏、東野英治郎、長塚美登、小林功、真実一路、小池栄、熊田正春
茶の世界をほとんど知らない自分にとっては、何となくイメージしている茶道を疑問なく飲み込みかねない内容となっていた。それというのも、豊臣秀吉の命で堺へ送られ、呼び戻されて自害するまでの千利休を中心に置きながら、弟子の本覚坊と織田有楽斎が場面場面で対話して利休の心を解き明かしていくのだが、台詞に古語が混じり、茶の湯の形式の中で観念と本質が言葉となり、とてもわかりやすいとは言えない勿体ぶった形にも見えるから、理解に迫る前にわからないまま鵜呑みしそうになった。
ただ映画としての内容は自分の趣味に合うもので、和楽器の使用による音楽が映像と一致して幽玄な世界に水滴を垂らす効果を何度も起こし、湖に森や雪の自然風景も混じり、名だたる茶人が皆切腹していることを追うことで戦国時代の命の儚さが伝わり、その当時に存在することになった茶道の存在意義が、ただの様式だけでなく、計り知れない意味を持っているのだと伺い知れるようだった。
それに登場するどの役者も悪くない演技をしている。この映画の作風が古典芸能の様式美を持っているので、台詞も表情も能楽に近いリズムで演出されており、明暗を効果的に使いながら構図は厳然と構えられ、何度も茶人同士が茶を点てては短い言葉で胸襟を開いている。
そして語られるどの台詞も背景知識がないと、それとなく理解するまでに時間がかかる。多くない語による前後関係と含みをもった台詞体は、連想させる基礎の想像力が必要となる古文であって、豊臣秀吉と千利休の関係だけでなく、茶道の精神などのほんのわずかな入り口でもないと、基礎の算数の計算力なしに方程式を解こうとするような無理さえ感じられる。
とはいえ物語の理解は台詞だけでなく、映像で感じてこそ映画だろう。表情や声の抑揚だけでなく、太閤と茶聖の茶室での対峙など、人の生きる道の本質と難しさや、発展と初心など、誰もが一通りでない人生を送ることを考えさせられる。
茶人という言葉に印象を持てない自分は、茶室で太閤が刀を抜く意味を理解しきれず、わび茶の概念がどのように完成を遂げたのか過程がまるで見えなかった。しかしこの映画は、考えに考え、切腹していった茶人を追ってついに利休が自害する心にたどり着く物語となっており、その映画の構成そのものが茶道と同様にあり、人生そのものの行程だといえるかもしれない。
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