1月24日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでテレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス監督の「十字架」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでテレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス監督の「十字架」を観る。


2018年 チリ 80分 カラー Blu-ray 日本語・英語字幕


監督:テレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス


過去の殺害事件を掘り下げていく内容は昨日観た作品と似ているが、今日の映画は沈黙が多くの意味をもたらしている。昨日は祖先の一個人からアメリカ社会に快癒せずに残り続ける差別という病巣を扱っていたが、今日は複数の被害者からチリという国家の独裁政権と関連会社の癒着の実態をスクープしている。


音楽の使用は2回だけで、冒頭の川面の美しいショットからこの映画の印象をすべて決めるショパンのノクターンが合わされる。ロングショットによる家族のじゃれあいが静かな画面に映されると、映画はほぼ法廷での証言と報告書だけで内容を追っていく。映像は多くをうるさく語ることなく、舞台となるラハという土地を流していく。


風景の流れるまま音声が伝えるシーンは昨日同様にあるのだが、決定的に異なるのが軽薄にならない姿勢であって、冒頭から遺族の強い意志によって制作されたというスクリプトの通り、余計な表現で惑わしたりすることなく、報告と伝達を真面目に、そして真っ直ぐに撃ち貫いてくる。


すこしでも間違えればただの証言集になる内容を肉薄させるものにしているのは、挿入するタイミングだろう。およそこの作品のすべてと言ってよいほどタイミングが素晴らしく、昨日の作品に嫌気がさしてしまったのは、結局ナレーションの数とタイミングがそうさせたのだろう。沈思させるわけではなく、もったいぶって間をあけるのでもなく、黙祷に近い祈りがフィルム全編に行き渡っており、証言に多少の誤差はあるにしても、ただ一つ、真実の追求と真相の全貌を開示することに作品は集中されている。


今回のドキュメンタリー映画祭の作品が扱う内容を一つでも自分の身に置き換えてみれば、ただ事ではないのだが、働いている会社からある日突然殺される出来事は、うすら寒い、中南米らしい冷酷な人間視点が見えるようで、ふと、マヤ文明などにあった人間を生贄にする陋習や、人の皮をはぎ取ったり頭部を残すその土地特有の人間性を感じたりもする。


強い感動で茫然自失とさせる内容ではないが、鑑賞後は誰かと笑ったりすることを避けたくなる映画だった。それは殺害に関与した警察官の証言がやや染み着くようで、19人を殺して埋めてから、誰も喋らずに部屋に戻っただけでなく、仲間内で口を割らないことを決めるように、事件と作品の根底にある沈黙がそうさせるようだった。

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