1月14日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」を観る。
広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで黒澤明監督の「隠し砦の三悪人」を観る。
1958年(昭和33年) 東宝 138分 白黒 35mm
監督:黒澤明
脚本:菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明
撮影:山崎市雄
美術:村木与四郎
録音:矢野口文雄、下永尚
照明:猪原一郎
音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、千秋実、藤原釜足、上原美佐、藤田進、樋口年子、志村喬、三好栄子、藤木悠、土屋嘉男、高堂国典、加藤武、三井弘次、小川虎之助、上田吉二郎
黒澤明監督が世界の映画作家と呼ばれることにはたしかな理由があると教わる作品だった。どの作風にもヒューマニズムが根底にあるという評価を目にしてうなずくことは多く、この作品も善し悪しどちらも好意的に含める大きな視点を持っているが、説教臭くならずに映画の持つ魅力をおおいに発揮した面白さが前にある。
三船俊郎さんをやや端に追いやるほどの存在を見せているのが、千秋実さんと藤原釜足さんの二人で、黒澤監督らしい手腕で魑魅魍魎に含まれても遜色のない百姓が浮き彫りにされている。細い腕に裸と甲冑に弛んで垂れる腹や、毛の生えた月代など、あげればいくらでも出てくる臭い特徴を備えながら、権威と欲に忠実に弱い小さな人間性がまんまに出ている。
前半の薄汚れた百姓たちの坩堝は尋常ではない数多性が迫ってきて、小粒の持つ驚愕の熱量で溢れかえっており、このシーンを生み出せるのは黒澤明監督以外に思いつかない。
それから隠し砦に場所が移り人は少なくなるが、ロケーションの質量はほぼ変わっていない。モノクロ画面が石灰を含むらしい岩場を明るくシャープに写し、坂は大小の石をいくつも下に転がしているが、それはちっぽけな存在が無数になって反乱を起こした前半を寓意するようにつながりをみせる。
難解さを省いたスケールの大きいこの作品は血の沸くシーンが多くあり、槍同士の一騎打ちや法螺貝の知らせる山狩りなど緊張の走る場面にのめり込まされるが、登場人物の緊張の緩んだやりとりとセリフのおかしさも見逃せず、何より音楽が一緒になって映像で主張してくることを休まない。
馬の走りは黒澤明監督らしい奔走となり、ラストに向かうロングショットの早駈けは遠望ながら幸先のよい未来が待っていることを確信させてくれる。勝負、逃亡、策略、擬態など、スリルとコメディーが多く色を持つこの作品は少年コミックに似た肌合いの良さと友情によって、鑑賞後も爽快な気分で送り出してくれる。
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