12月24日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで黒澤明監督の「野良犬」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで黒澤明監督の「野良犬」を観る。


1949年(昭和24年) 新東宝、映画芸術協会 122分 白黒 35mm


原作・監督:黒澤明

脚色:菊島隆三

撮影:中井朝一

照明:石井長四郎

録音:矢野口文雄

美術:松山崇

音楽:早坂文雄

出演:三船敏郎、志村喬、清水元、永田靖、河村黎吉、淡路恵子、三好栄子、木橋和子、岸輝子、木村功、山本礼三郎、東野英治郎、本間教子、千石規子


何年も前に観たことのあるこの作品は、とにかく茹だる暑さだと記憶していた。冬の入り口に観るのは最適だと足を運んだら、暑苦しさに伴う辛抱がきりきりするほど伝わってきた。


拳銃を盗まれた事によって始まるこの物語は、小さな出来事が斜面を転がる雪の玉のように大きくなる図式となっており、初めから謹厳実直な新米刑事らしい態度を表していた三船さんは次第にその苦悩を強めていく。それをサポートする志村さんは飄々としながらも、仕事に対するスピード感はゆるめずに、次々と事にあたっていく。


細かいカットの規則的な編集も混ぜられながら、場末の情景を様々に映しており、物を盗られたことに対してどのように人は姿勢を示すか、その事例を盗まれた拳銃の刑事と盗んだ男に対比し、平行させ、ついに交差させる。描いているのは、劣悪な環境がいかに悪人を生む苗床になっているかであり、それらから発生した犯罪者に対して同情を持ちつつも、そのような人間がいることでいかにまっとうに暮らしている人たちに悪影響を与えるか、またどれほどの平凡と未来を奪うことになるのかなど、医療とは異なる不条理な世界と社会に対しての誠実な倫理観が語られ、多くの経験を重ねることで人は育っていくという正当なメッセージが込められている。


追いかけた女から手がかりをつかんで事はすぐに解決するような気配さえある序盤から、予想以上に手こずって拳銃が次々に事件を起こしては神経をすり減らす中盤に向かい、捜査が二手に分かれて激しく雷鳴の轟くなかでの緊迫感までの運びは、良作にふさわしい緊密な展開となっており、足跡を追って今の犯人にたどり着くまでの足労が重苦しくのしかかってくる。


奪われたコルトは、誰のものでもない。自分の過失に拘泥する刑事を叱る台詞は誰もが踏んだ経験でもあるようで、目先の木にとらわれず、森として社会の様相を観なければならないという刑事の基本の構えが唱えられる。連日観ている黒澤明監督の作品の系譜らしく、人間倫理に基づいた心を打つ作品となっており、前に観た時に比べて三船さんと志村さんの演技に表面的な退屈の先にある、絞りきるような人間心理の色合いがきつく、濃くあるからこそ、ラストの病室の光は希望に輝いて見えた。

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