12月17日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで谷口千吉監督の「銀嶺の果て」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで谷口千吉監督の「銀嶺の果て」を観る。


1947年(昭和22年) 東宝 88分 白黒 35mm


監督:谷口千吉

脚本:黒澤明

撮影:瀬川順一

美術:川島泰三

音楽:伊福部昭

録音:亀山正二

照明:平田光治

出演:志村喬、三船敏郎、小杉義男、河野秋武、若山セツ子、高堂国典、石島房太郎、登山晴子、岡村千鶴子、石田鉱、笹井利夫


中止になるかと毎日確認していたら、上映するらしいので映画を観にいった。


三船敏郎さんの生誕100年ということで三ヶ月にわたって特集されるらしく、世界でも有名な稀有な俳優の多くを知ることができる。


この作品は三船さんのデビュー作とあるが、他人に同情を寄せることのできない利己的で自己世界に完結する悪人らしい一面性を担いながら、幅の狭い登場人物の性格に目を離せない存在感を宿らせている。西洋の俳優顔負けのセクシーというべき美貌に、悪の魅力が稲光る鋭い眼光を走らせ、ドスのきいたせっついた言葉を吐くのだが、この人らしい奥深い人情はすでに表れている。


温泉宿で強盗する前の展開はカメラとフィルムがあまりにも暗く古く、音声もやや聴き取りづらいのもあってどのような物語かわからずにいたが、身ぐるみを剥がされてたくさんの猿がのんきに温泉に浸かるような場面のあとに強烈な雪山の逃走劇と雪崩が起こると、暗かった画面は白銀の山々の神々しい自然の中で明るく輝き、物語の光と影が色濃く表れ始める。


ややみくびっていたこの作品は、古いからこそ発露する生命力の強大さがみなぎっており、ロケーションの質の高さは固唾を飲む。今と違って雪山への装備はハイテクではなく、ここ数日の寒波で自分の手足はかじかんでいたが、画面の中では一体どのように温度を保っているのかと不思議で仕方ないほど、深い雪に足も体も突っ込まれていた。


スタントだとわかりながらもその動きやシーンには映像としての見応えが多くあり、峻烈な環境だからこそワンショットを撮るだけにどれほどの労力が必要かと、信じられない気持ちが続くほど多様な風景が撮られている。


若い三船さんにすでに三船さんがいれば志村さんにもやはり志村さんらしいおおらかさが出ている。演劇らしい河野さんも足でザイルを固定する動きなどところどころに緊迫感が表れており、山小屋にいた老人も女の子もアルペンらしい雰囲気を持ちながら暖かさを保っている。


三船さんの特集だが、当然関係する映画監督や名優にもスポットがあたる。先はどうなるかわからないが、特集の始まりとしてあまりに寒々しく厳しく、粘着力の強まる気温の中で人と人の絆を強く結ぶ映画となっていた。

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