12月11日(金) 広島市中区土橋町にある花屋「SHAMROCK/シャムロック」で「Quartet -花とクリスマス- 展」を観る。

広島市中区土橋町にある花屋「SHAMROCK/シャムロック」で「Quartet -花とクリスマス- 展」を観る。


仕事帰りに寄るか寄らまいか、自分で好んで毎日夜をふらつき、家事も趣味もやるべきことを溜めていたので何もせずに帰宅したい気持ちを持ちながら先にある好奇心に追い立てられ、眼鏡を忘れたことも手伝って仕事終わりまで日中揺れていた。


そんな時は結局足を運ぶもので、職場は遠くを、そして何かを凝視する必要もないのでぼやけた視界がちょうどよいのだが、暗くなると霧に包まれたようにすぐ近くが見えず、「SHAMROCK/シャムロック」さんにやってくると見慣れない植物たちが様々な色と形で溢れているので、エキゾチックな異世界に迷い込んだような気分になる。店に入ればすぐに針葉樹のすっとする香りが鼻につき、季節によって様相を変える植物達はギャラリーに来る以外に足を運ばない自分でもなんとなく目につき、二階の奥に向かって歩いていくと、目が悪いからこそ植物の芯が存在を発揮している葉や枝がまるで妖怪のような存在感で迫ってきて、ワンダーランドの中にいるように錯覚する。


ギャラリーに入ると、それぞれの作品もどことなく有機的な要素を強く持っているように思える。石田敦子さんは木材や布などの素材で西洋的な平面性に幼さを保ちつつ大人の可愛らしさに発展させたようなシュールな雰囲気があり、トランプにあるようなダイスやクローバーの形態が愛らしく、アルミに彩色されたという不思議な質感の人形達は絵本を旅して得られる旅情がある。個人的にはアザミらしき蕾のささったワンピースが好みで、この小さな衣服だけでたくましい想像力が促される。


さこももみさんは質感の異なる作品が展示されており、ざらついた面の原画は色彩と線が作る世界の輪郭が強烈にあり、微笑ましいキャラクターながらどこか陰りと落ち着きを感じるのは深みのある色彩の選び方にあるのだろう。それらに比べると鮮やかな面の作品には遠近感がより表れており、より華やかに、可憐な甘さがメルヘンの持つ陽の要素を輝かせている。中でもリースに飾られたロシア的な情緒と深みを持った作品が好ましく、カエル達の絵付けのユーモアには腰が緩んでしまう。


そんな二人の作品の器や額をこしらえていた藤川稔さんの作品は幅広く、滑らかに研ぎ澄まされるような質感から遠ざかるようではあるが、厚さと薄さを兼ね備えつつ表面に植物や大地の持つ波状や幹のざらつきが表され、色も多彩に面白くも可愛らしく選ばれている。サボテンの作品は一度目にした「叢」さんを想起させる形態をしており、眼鏡のない目の影響よりも、むしろレンズを通して可視できたにしても本物と間違える量感でずっしりしている。


やはり家に帰らずに来てよかった。藤川稔さんから器に関する美味しい話をもらい、最近行われたという「蕎麦屋香月」さんでのタナゴコロのイベントに牡蠣の想像を膨らませて、美和桜の一杯に腹がへってしまった。


多少なりとも植物を買いに来ればと思ってしまうが、家の観葉植物はあまり帰らない自分の不世話に荒々しく下葉を枯らしており、来年は経済的な理由も含めて年賀状を送らない心持ちでは、誰かへ飾られた草花をプレゼントするほどゆとりがない。それに切り花よりもついつい土に乗っかる品種を選んでしまうなどと、誰に対して言い訳しているのやら。


三人の作品に素晴らしい造形感覚で草花を飾るシャムロックさんの手腕がやはり見事で、ちょっとした手を加えることで他にない魅力的な世界を作っていると、カルテットという名の通りうまく調和した展示会にうなずく。そしてメガネを忘れても、近視眼で作品を近くに観れば見えないことはない。やはり直帰しなくてよかった。

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