12月12日(土) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・多目的スタジオで「平原慎太郎ダンサー育成プログラム Organ Worksプロデュース『ADDANCE vol.2』」を観る。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・多目的スタジオで「アステールプラザコンテンポラリーダンスプロデュース公演 平原慎太郎ダンサー育成プログラム Organ Worksプロデュース『ADDANCE vol.2』」を観る。


「Under the roof」(平原慎太郎監修作品)

振付・演出:横山未弥


「utopia」(平原慎太郎監修作品)

振付・演出:矢藤智子


「In any case...」(平原慎太郎振付作品)

出演:オーディション先発メンバー

岩手萌子、岩本伊織、加用舎那、中田絢子、中西あい、中元妃世里


「Look forward」(平原慎太郎監修作品)

振付・演出:光廣ひか里


「繊維」(平原慎太郎監修作品)

振付・演出:善岡宏和


「pace make」(Organ Works 作品)

出演:平原慎太郎、高橋真帆


平原慎太郎さんが広島に来てくれるのは本当に感謝すべきことだ。主宰であるOrgan Worksによる昨年の「ADDANCE」も見応えがあり、今回のvol.2もコンテンポラリーダンスの世界の広さを思い知る内容で詰まり、広島市内では演劇に比べて多いとは言えないダンス公演への欲求を強く引き出してくれた。


横山未弥さんは、部屋に入る効果音とパントマイムによって作品世界への入り口がわかりやすく提示されており、それがあるからこそ想像のつけどころがたやすく、コンテンポラリーダンスという難解なイメージを抱いてしまうとっつきにくさをほぐすように始まった。ひさしぶりにコンテンポラリーダンスを目にして、体の線と動きがこれほど情感を持ち、ダイレクトにリズムが体現されていることに驚いてしまった。動き一つの滑らかさにしても、始まりと終わりに筆の動きのようなレガートがあり、単に滑るのではなく、その間の波形に力の呼吸がすべて宿っており、これほどのものかと改めて実感させられた。スポットライトの使い方は演劇と異なり、フェードインとアウトがより空間と現象を垣間見せ、音楽によりかかる面が強いからこそ選曲の上手さが引き立ち、音の支配の中で夢現の表現力の訴えかける強さに飲み込まれる。やはり観賞経験の乏しさは細かい点を捉えきれず、だからこそ記憶から拾いにくく、その中でも力感のある動きもありながら旋回もあるという感想にもならない感想がどうしても出てしまうものの、スイッチから始まったような物語世界は聞き慣れない音楽だからこそアンビエントという不確かな言葉で固定され、自由に描かれているように思えた。


矢藤智子さんは、始まりからショッキングだった。日常生活ではおよそ目にする機会について考えることもない股間の現前は、そのまま突き出された肉体と観客の関係性がそのままこの作品に表現されているようで、縛り付けられたのかそれとも不具があるのかわからない動きに繋がり、滑らかな線よりも演劇としての肉体表現に近い踊りは憑依的で、笑っているのか叫んでいるのか、喜んでいるのか嘆いているのか、一つの表情の中の多様な面に困惑させられた。象徴的な肉体のポーズが静止の中で止まり続け、コンテンポラリーダンスらしいイメージながら不可解ではなく、視覚から強く惹きつけられる作品となっていた。


オーディション先発メンバーの作品は、広島市内でのダンス公演で目にする人達が当然含まれており、6人の女性たちはオレンジから赤、それにチェックも混ざる衣装で甘美ながら若さと背伸びも感じる素敵な世界を構築していた。コンテンポラリーダンスはピタゴラスイッチのような日常空間に疑問を投げかける要素もあるのだろう、車輪付きのイスとテーブルが使用され、それに台車とダンボールも登場して形式的な流れ作業の退屈さを冷然に踊り笑うように動き、鼻を上にあげる高慢なビジネスウーマンの女性像は時代の流れを汲んで貴族然に踊りだし、虚無と美しさが共に潜んで、自動人形のように回っていた。今更ながら小物の使い方に目が向き、コンセプトを持って表現するという基本形態に演劇とのボーダーを考えさせられ、ポップかアートか、などのように考えるまでもない垣根の消失にも頭は向かった。平原慎太郎さんの短い説明では、踊り手の個性や癖などを考慮して作品を仕上げたらしく、それは当て書きのような組み立て方だろうか、たしかにそれぞれの踊りに基礎の差があり、足先までクラシックバレエらしい神経の行き通いもあれば、柔らかい動作にヒップホップらしい躍動感と肉感もあり、それぞれの違いが数限りなく交差しつつ、盛りあがっていく途中にうまく音が切れて展開は裏切られ、予想もつかない可憐な女性たちの豪華な調和は非常に観る点が多かった。それにしても、よくこれほどの作品を描けるものだと、振り付ける人の頭脳の働きに驚き入ってしまう。


光廣ひか里さんは、この公演の中で最も明るく颯爽と走り、音楽も雰囲気に寄り添う呼吸よりずっと輝かしく、なぜか広瀬香美さんを思い出してしまった。長い髪の毛を一つにくくり、シャツのボタンをはめて動き出す姿はビジネスウーマンらしい格好良さがあり、長い手足を大きく使って躍動するエネルギーは快活な女性が描かれるようで、慌ただしくなる動作もあるが、音楽と照明にタイミングを合わせて体が大きく開かれる際のフラッシュは眩いものがあった。


善岡宏和さんは、前回公演では言葉が先に走り、どうもそれほど動きに感動を覚えなかったが、今回の作品は糸の構造についての説明から人間関係につなぐ運びが面白く、見えない他人とのつながりを照明で生み出して動き出すと、手を絡ませながらの踊りに独特な情感を醸された。もしかしたら、前回は動きに対しての感受性が乏しく、今回も女性たちの運動に比べると地味に思えるが、滑らかながら不可思議に絡まる踊りにコンセプトと連結する明確な表現動作があることに気づき、ふと、初めて平原慎太郎さんを観た『談ス・シリーズ第三弾』の肉団子の連鎖動作の面白みが、今ならよりわかる気がした。


その平原慎太郎さんと高橋真帆さんによるOrgan Worksの作品は、さすがの表現力と構成力となっていた。小道具を用いつつ、互いの腕をそれぞれ掴んでコーヒーを淹れるという動作で男女の関係性と協調性を表すようで、ジャズらしい音楽の中で大人というよりも成熟した人間同士のやりとりが味わい深く、格好良く踊られていた。その表情と息遣いにはダンスよりも演劇らしい表現要素が強く表れ、照明と音楽の使い方もまた一段と複雑になり、的確でわかりやすくありながら単調にならず、なるほどと何度も思わせる様々な男女生活のメタファーがうまく踊りに描かれていた。特に互いにコーヒーを飲んでからの展開がうまく、そのあとに黒いバスローブのような布をまとい、影を含めた遠近世界で描写されると、突然ノイズの連続で虫が走り、神経的な発作のように機械的な動きもまざって混乱する場面は面白く、そのあとも一方的にならずに中断されて二人が同様に動き出すところなど、実に構成力が光っていた。


もっとダンスを広島に。などと飢えて欲するほど面白い各作品となっており、もちろんバレエやタンゴだけでなく、フラダンスや社交ダンスも各場所で行われているが、より頭を使わせる表現の深みをもったコンテンポラリーダンスに接する機会をより望んでしまう。そうなるには、平原慎太郎さんや近藤良平さんなどの有名なダンサーが広島に来てワークショップを行い、地道に活動しているダンサー達を中心に少しずつ種を撒いて文化を広げていく他はないのだろう。


そんな一見らしい知ったような口ぶりは置いておいて、今後もコンテンポラリーダンスの公演があれば、優先して観に行こうと思う満足した公演だった。

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