12月4日(金) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで是枝裕和監督の「万引き家族」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで是枝裕和監督の「万引き家族」を観る。


2018年(平成30年) フジテレビジョン、ギャガ、AOI Pro 120分 カラー Blu-ray 日本語字幕、音声ガイド


監督・脚本・編集:是枝裕和

撮影:近藤龍人

照明:藤井勇

録音:冨田和彦

美術:三ツ松けいこ

装飾:松葉明子

衣装:黒澤和子

ヘアメイク:酒井夢月

音響効果:岡瀬晶彦

音楽:細野晴臣

助監督:森本晶一

出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林、緒形直人、柄本明


この作品がパルムドールを受賞したニュースは自分の中ではまだ最近のことで、そんな映画が映像文化ライブラリーで上映されるから儲けものに思える。エニェディ・イルディコー監督の「心と体と」もそうだったが、1000円以上のチケットで観た映画が1年くらいでここに来ることは稀にあり、今月はそのような作品がいくつか上映される。


あれだけ話題をさらって上映されていた作品だからこそ観ないという偏屈な態度だから、今日も斜めに映画を前にしていたが、なかなか悪くなかった。などと言えば偉そうだが、芸術としての映画の深みよりも、現代の演劇に扱われそうな社会問題を集めて活かした一種の理想郷として擬似家族が描かれていて、その着想が何より価値があるように思えた。


北林谷栄さんに近づいたようで異なった樹木希林さんの演技や、社会規範の良し悪しの外で人と人との関係に子供のような率直さを持つリリーフランキーさんや、過去の虐待を持ち抱えて今のおおっぴろな態度となっている安藤サクラさんなど、それぞれに飾らない昔ながらの家族関係を現代に表しているやりとりは軽妙で愉快だが、一個人の俳優がみせる恐ろしいまでのショットはなく、むしろ全体としての味わいが一般庶民のまま大切にされている。


それは自分自身がろくに働きもせず柴又の安アパートに寄生して住んで、要介護認定ながら毎日タバコを吹かしてふらふら歩いているブルックナー似のじいさんや、アムウェイの鍋に入れてタラの芽や笹巻きをお裾分けしてくれた山形出身のおばあちゃんという隣人に、心臓は悪いが面倒見の良い大家さん、風呂場の換気扇に雀の巣、松戸、江戸川、すこし足をのばした三ノ輪や南千住など、現代の下町と呼べる生活の体験がこの映画には色濃く描かれており、特別よりもむしろありきたりの疑いのない、ゴミ屋敷が登場してなんら違和感を覚えないような具合があるからだろう。


劇中にこの映画の主題は言葉で何度も述べられており、作品を観るのに難しさはない。盗み見のようなカメラアングルでやや不穏な関係を映し取るが、次第にありのままの家族の中のほころびをつい見過ごしてしまうようになり、今が大切という逃げの視点が登場する誰にも宿りつつ、それを許してしまう自分がいる。血のつながりや社会のルールがはたして言葉の意味を本当に持っているのだろうか。それぞれが盗みを働く関係によって繋がれているが、それも他者との関係の本物として同情が説得力を持っている。


誰しも子供の時があり、あらゆる道を経て大人となる。この映画は賞をとっているが、むしろ食卓が似合うような朗らかさで広がっており、印象として厳かしい質量を画面は持っていない。ただ扱う物語が鋭いから、人情話としてのあぐらがあり、能よりも狂言、講談よりも落語といった比較になるか、登場するそれぞれの裸がさらされており、着飾る必要のない心の通いを考えさせる。


風景に山がなく、枯れた印象が川辺に思い起こされる葛飾江戸川足立区に、知り合いはいなかったが畳の近かったことが思い起こされ、良い土地で若く貧しい時を過ごしたとつい懐かしくなる作品だった。

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