12月3日(木) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島プロミシングコンサート 2020」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・大ホールで「広島プロミシングコンサート 2020」を聴く。


指揮:鈴木織衛

管弦楽:広島交響楽団

ピアノ:岡崎清香

トランペット:小林佑太郎

ヴァイオリン:木村瑠菜


ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調

トマジ:トランペット協奏曲

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調


以前ならば新人演奏会という名前だけで足を運ぶことはしなかったが、今年になってギャラリー巡りを始め、プロとして名を馳せていなくても観るべき点のある作品を前にして、純粋に水準の高さに驚かされた。


それは広島市内に散在する劇団も同様で、有名な映画やプロの舞台に立つことはなくても役者の表現力は一定を満たしており、それぞれ個性が異なっているので、観ていてとても刺激を受けるのだ。


それを音楽に当てはめようと思って「広島プロミシングコンサート2020」にやってきた。有名な海外の楽団が来日するのを追いかけたりして、地元の楽団を聴くことをしない人もいるが、それはそれでいいのだろう。ただ自分自身としては、権威だけを信頼しないで、芸術としての質の高さよりもそこに携わる広島の文化と人々を観て、気づけば書いてばかりいる自分の感想を残し、互いに影響を与えることができればいいと思う。投資や教育とは異なるが、結局見守り育むことが嫌いではないので、一過性の芸術鑑賞だけにとどまらず、成長していく人間ドラマも感じたい。と言えば聞こえはいいが、結局音楽が好きだから聴きに来ているのだろう。


岡崎清香さんのピアノは有名な曲だけに、歴史に名を残す偉大なピアニストの音色と比べてしまう。もちろんそこを基準に粗を批判したりすることはさすがにしないが、クラシック音楽の聴き始めからショパンを好むような気質ではないから、あまり趣味に合わない甘さについ目が向いてしまう。座った位置も関係しているだろうが、やや音が弱く感じられてしまい、特に高音部の響きがか細く、一音一音の持つ生命力も乏しく、素早いパッセージの技術は高いが躍動感とスケールの大きさよりもナイーブな走りとなり、もう少し力強さがあればと思ってしまった。そんな女性らしく優しい表現の中でも、第三楽章の後半部ではその直前に大きく息を飲んでリラックスしたようで、細やかな音の粒がつぶさに踊って生気に溢れていた。


ピアノに比べるとトランペットは生の音を単色で聴く機会は少なく、ハイドンのトランペット協奏曲やジャズで音色を知っていても、クラシック音楽の有名な演奏家を基準にすることはないので、ほとんど聴いたことのないトマジの協奏曲となると新鮮に体験できる。それがあるにしても、二つのミュートで音色を細かに変化させて吹き鳴らす小林佑太郎さんの演奏は音の大きさや堂々たる吹きっぷりもさることながら、オーケストラを背景としての表現力の鮮明さに微笑んでしまった。細かな指使いに音の粒は細分されながらも一音一音の強さは残り、クレッシェンドにしても高揚感を引き出す滑らかさが走り、ソロパートでの集中と集約は見事なものだった。アメリカ大陸を感じさせる哀愁と陽気な音色が何段階にも分けられており、まさに多彩な音楽に活力が湧くような演奏となっていた。


ヴァイオリンもピアノ同様に比べてしまうものの、木村瑠菜さんの音色は冷たく厳然としていて、女性らしい甘さや優しさよりも研ぎ澄まされた美しさが目立っていた。秋の深みはとにかくブラームスがよく聴こえ、スケールの大きいオーケストレーションの中ですぐに硬さはほぐれ、鬼気迫るほど集中して、高音でもくすぶることなく強い音が響き、ボウイングのたくましさがそのまま芯のある音を奏でていた。風格のある演奏となり、第2楽章もだれることなく情緒深く、第3楽章でも煌びやかながらも慎ましさを持ち、立派にブラームスの持つ曲の世界を表現していた。


見守る、育むなんて意味を持って足を運んだなどとは、とても言えないだろう。若いというだけであって、鍛錬してきた時間と量は世間一般の人々に比べても突出しており、才能と我慢の組み合わせは大変なものがある。むしろ、そんな若い人々の頑張る姿を見て、自分自身の糧として成長を促したい本人がいる。


やはり良い音楽を聴きたい。そんな欲を嬉しく満足させてもらった演奏会だった。

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