11月21日(土) 広島市中区袋町にあるギャラリー718の「IMAGES OF ITALY Nick Kane 個展」を観る。

広島市中区袋町にあるギャラリー718の「IMAGES OF ITALY Nick Kane 個展」を観る。


最近ギャラリー巡りが習慣になって、どことなく広島にあるいくつかのギャラリーの色合いを感じられるようになった。今日の「IMAGES OF ITALY Nick Kane 個展」も水彩、ボールペン、鉛筆、アクリルインクなどの画材が使われており、作風はそれぞれ異なっているのだが、このギャラリーの持つやや古風でありながら、真面目で衒わない可愛いい美術の雰囲気と一致するようだ。


入ってすぐ右に飾られている水彩画の木々の風景がすぐ目に入り、淡い緑の葉の中で樹木は立ち、樹皮に目を近づけてみると、日本のどこかにも似た感じはあるのかもしれないが、ヨーロッパだからこそ育つ鮮やかに苔むした肌合いが繊細にみずみずしく表れていた。


イタリアという言葉はボールペン画にルネサンス期の素描をリンクさせたがるとおり、衣服の襞から生地の厚みや肌合いが音に聞こえてきそうな質感を生んでいた。


ニックさん本人に少し解説をいただいたイタリアの古い家屋の鉛筆画は、実際の風景をまずスケッチして、そこから本人の表現意識に合わせてドアの場所やポストなどを配置換えしたり付け足したりするらしく、作品の90パーセントが実際の景色となり、あとはバランスを考慮しての描き足し引きになっているらしい。本人のフェラーリ本社でのデザイナーという職業を短絡的に結びつけてしまいそうになるが、たしかにできあがった作品はノートでみせてもらったスケッチに比べると数学的な呼吸があり、むしろ写真や映画に感じる作られた構図のバランスが息づいている。それでも鉛筆による蔓草は地方の古い叙情性を持ち、手荒く見える石積みや風化した煉瓦のむき出しが手直しされて描かれているにしても、古典小説に感じる古き時代の本物が宿っている。


平面的なアクリルインクの作品にも廃屋の持つ素朴な趣味はところどころ残っており、もう少し時間をかけて鑑賞すればより本人の性格や好みが観えてきそうだ。


フェラーリのデザイナーという印籠のような肩書きでずいぶんとイメージは浮かび上がるものの、作品そのものは信頼における美術の伝統が宿っており、秋に枯れていく今の季節と同調するように、どれも自然への暖かい眼差しを感じられる作品となっている。

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