11月8日(日) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイーゴリ・タランキン監督の「セルギー神父」を観る。

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでイーゴリ・タランキン監督の「セルギー神父」を観る。


1978年 ソ連 99分 カラー Blu-ray 日本語字幕


監督・脚本:イーゴリ・タランキン

原作:レフ・トルストイ

撮影:ゲオルギー・レルベルグ 、アナトリー・ニコラエフ

美術:ヴィクトル・ペトロフ 、ユーリー・フォメンコ

音楽:アルフレート・シュニトケ

編集:ゾヤ・ヴェレフキナ

出演:セルゲイ・ボンダルチュク、ワレンリナ・チトワ、ウラジスラフ・ストルジェリチク、ニコライ・グリツェンコ、ボリス・イワノフ


肝心なぬけ落ちとして、前半の多くを寝て過ごしてしまった。ここを逃したことでセルギー神父がなぜ修道僧であるかがわからず、苦悶の連続が顔面で知らされ、淫乱、罪人と、極度に自分を責めて俗気から抜け出そうとする性格を飲み込む為の手がかりを失ってしまった。


それでも静謐に包まれた映画の雰囲気を味わうことは可能で、トルストイの小説が原作というのもうなずける潔癖なまでの純潔への希求と、いささかの不徳の傷さえも許せない苛烈なまでの完璧主義の相反による苦悩が描かれており、ある人にとっては退屈な物語となるが、ロシアの小説にたびたび登場する驚くほどの恥じらいを持った人物や、だからこそ慈愛に満ちた売春婦となるという、日本人ではなかなか考えられない極端に信心深い性格が納得される。


ボンダルチュク監督の映画作品に比べればスケールは小さくなるが、チャプターのデザインは懐古的な表情を持ち、ロシア正教のイコンが透けて見えそうな静けさもあり、セルギー神父を演じるボンダルチュクの俳優としての実力の深さは皺の険しいものがある。


隠遁中に女性が訪れてきて指を切り落としてしまうシークエンスの情感もロシアらしい宗教価値観が色濃く現れてよいが、実際に淫猥な罪を犯してセピア色の記憶を源に昔の人を訪ねるシークエンスは、画面の色通りとても暖かみがある。セルギー神父は多くを口にしないが、ドストエフスキーの肖像のように険しい顔面に白い髭を伸ばした風貌は哲人の偉容が図太く固まるようで、空返事の連続の奥に想像を絶する悩ましい葛藤が永遠に対決しているのが見てとれる。


おそらく笑いなど存在しないだろう。悩む星の下に生まれた人は、天罰のようにあまりに純粋な性質の中で自問し続け、その間に多くの人を救い助け、自身はなに一つ救われないのだろう。


イタリアやフランスのカトリックとは異なる、ロシア正教と国民性が持つ一徹の宗教心による、死ぬまで救われない問答に自身を見直させる作品だ。

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