11月8日(日) 広島市中区基町にある基町ポップラ広場で「例年よりちょっと地味な芋煮会」に参加する。

広島市中区基町にある基町ポップラ広場で「例年よりちょっと地味な芋煮会」に参加する。


津和野で芋煮を食べたのは2年前で、広島の芋煮会に誘ってもらったのが1年前になる。今年は厳しい環境の中での開催となり、昨年お話しした方から短くないこの芋煮会の歴史を聞いていたので、脈々と続いて大きくなった会も今年は雰囲気が異なるのかもしれないが、皆さん昨年に観た光景同様に好天の下で和気あいあいと憩っていた。


前回初参加の自分は一度会ったことのある人はいるにしても、知り合いというほどの関係の人はほとんどおらず、緊張の中で飲んで食べて、気づけばずいぶん酔っぱらって次の日まで酒を残してしまった。


今年はさすがに広島の食の世界に少し馴染んできたので、坊主頭から二八分けに髪型は変わり、眼鏡も四十年前のような堅苦しいフレームから変わったにしても、顔を見合わせて挨拶できる人が増えた。


昨年も海の幸の焼き立てが非常に美味しかった半田さんのテントはほぼ同じ位置にあり、カキのぷりっとした身をぺろっと食してからサザエが焼けるのを待つ間に、知った人がやって来て挨拶する雰囲気を見て和んでいた。すると日本海からやってきた蟹の汁が容器に橋をかけて渡され、脚をぼりぼり砕いている間にサザエは沸騰して、くるっとした身を噛んで海の煮汁を飲み干す。


雨後の月のにごりを飲んだり、賀茂金秀を注いだり、美味しい酒を手当たり次第に口にして、昨年と位置の異なる豚鳥さんの前に行き、砂ずりの焼きあがるのを待っていれば、ピンク色の女性方がハイトーンの懐かしい音楽に踊り、タコスをもらって噛みつく自分の止まっているそばでしり合い同士がぶつかり、踊れなくてもついつい微笑んで揺れてしまう。


酒瓶の並ぶ日陰のテーブルには、昨年お持ち帰りして何度も晩飯で楽しませてもらった玉こんにゃくがあり、奈良漬けもあり、超人パン屋さんの美味しい還暦祝いパンもあり、ナンプラーの染みたハマチもあり、辛い素焼きアーモンドも回ってくれば、唐辛子の輪切りが甘辛いのもあり、カボチャのペーストだろうかとたくさん箸にすくってみれば、玉こんにゃくにつけるカラシで、さすがに飲み込めずに鬼怒の顔に涙を浮かべたまま太田川に向かったりもする。


今年もまるまる大きいつぼくさ農園さんのサトイモを腹に占めては、もう亡くなった祖父さんは畑でサトイモばかり育てて、母親が「もっと他の野菜を育てればいいのに」なんて文句を言いながら、小さい芋を頻繁に炊いていたのを思い出す。


会もたけなわ、日射しを避けた日陰は賑やかで、昨日会った方も、数年前に会った方も一緒になって酒を飲み、気がつけば昼過ぎとなっている。もっとこの場にいて楽しんでいたかったが、まるで義務や命令のように映画を観に行く予定を入れていたので、そっと抜け出してすぐ近くの映像文化ライブラリーへと行く。


きっと残って楽しむのも良い選択だったのだろう。眠気を我慢できずに前半のところどころは寝落ちしてしまい、映画が終わって河川敷に続きを駆けつければ、やっぱりもうおしまいだ。まるで浦島太郎の気分で締めの音頭に手を叩く。


こんな時に思うのは、ただ楽しいだけではない感謝だ。準備はゴボウ一本を包丁でスライスしただけ。用意したのはワインにオープナーだけで、大した役にはならない。この日の為の準備は、場所、里芋、日程調整、ルールの徹底、参加者の流動などさまざまで、まだ新米から抜けられない新参者だからこそ、何もせずに用意された場でへらへら笑っていられる。


一朝一夕のつながりではなく、地道に築かれてきた絆があってこその芋煮会なのだろう。心からのごちそうさまを腹にとどめ、楽しい会の記憶を重ねていきたいと、酔いのさめ切らない頭で数時間前の光を振り返る。

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