9月10日(木) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで熊井啓監督の「サンダカン八番館 望郷」を観る

広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーで熊井啓監督の「サンダカン八番館 望郷」を観る


1974年(昭和49年) 東宝、俳優座 121分 カラー 35mm


監督:熊井啓

脚本:広沢栄、熊井啓

原作:山崎朋子

音楽:伊福部昭

撮影:金宇満司

美術:木村威夫

出演:栗原小巻、高橋洋子、田中絹代、田中健、水の江滝子、水原英子、藤堂陽子、柳川由紀子、中川陽子、梅沢昌代、小沢栄太郎


作品情報をまったく見ずに上映開始後に入場したので、どんな物語なのか後半に入るまでわからなかった。萎れきった田中絹代さんと若々しい栗原小巻さんの関係がどのようなものか、回想シーンに入るあたりから予測をつけていたものの、実は義理であっても母娘かもしれないという疑いもあったので、二人向かい合ったラストに近い情愛結ぼれるシーンでようやく納得した。そのシークエンスこそ、優れた演技力の俳優同士による最も強烈に迫ってくる場面だった。


“からゆき”さんと呼ばれる日本から東南アジアに売られた女性達の史実を描いたこの作品は、忍び込んでのインタビューと回想という構成に目立って特別な点はないが、役者は選りすぐられているので、高橋洋子さんも含めた3人の女性の演技に注目してしまう。ズームによって顔の表情を捉えることも多いが、海辺での叙情的なロングショットもあり、迫力のある長回しによるいざこざもあり、部屋の向こうの人物を追ったムービングなども映画としての基本構造の質が高い。そこに伊福部昭さんの音楽が部分部分に加わり、メッセージ力のある栗原さんのナレーションも深刻な語り口で挟まれる。


扱われる題材の悲哀こそ見逃せないのだが、それ以上に目を奪われるのは田中絹代さんの存在で、実体と演技の見分けのつかない人物の味わいというのは、年輪に肥えた真率な人間性が体現されており、枯れた体に小僧や女などを潜めながら、人と人の結びつきの如何をありのままに映している。それはなんてことのないことだが、心を震わせてやまない率直な慈愛の結晶として、人の心を取り戻す力がある。


おそらく原作の色合いも強いのだろう。学びもありながら、信実な点が貫かれた作品だった。

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