9月11日(金) 広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第403回定期演奏会」を聴く。

広島市中区加古町にある広島文化学園HBGホールで「広島交響楽団第403回定期演奏会」を聴く。


指揮:阿部加奈子

ピアノ:小川典子

コンサートマスター:佐久間聡一

管弦楽:広島交響楽団


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37

フランク:交響曲ニ短調


今期は毎回席を選んでチケットを購入しているので、藤田真央さんを聴いた時とほぼ似た最前列の席となり、ピアノの音色をコントラストと思えるほど聴き比べることになった。


フランスで学んできたから。指揮者の阿部加奈子さんにそんなイメージを先行させていたが、ベートーヴェンの協奏曲が始まってすぐに、オーケストラの響きに実力を感じた。フレージングは伸びやかだが引っ張りすぎず、区切りよく、だからといって淡泊にならない鷹揚で豊かなオーケストレーションだった。小川典子さんのピアノには第一音から大きさに驚かされた。最前列だからそう聴こえるのか、そう思ったが藤田真央さんの印象に比べるとあまりに硬質で、骨太ではないが折れることのない質感があった。無骨とは決して言えないが、深紅の薔薇に盛られた素敵な衣装と華奢な体ながら音の持つ存在感が強く、おぼろげな水の音よりも澄明な意志を持った響きに聴こえた。やや荒っぽいと思われる箇所もあったのは、おそらく藤田さんのピアノの印象との対蹠がそう感じさせたのだろう、第三楽章になると伝統をもった振れない音楽性を感じられるようになり、個人の情動の癖に溺れることのない技術よりも真摯な信頼における音楽の良さが流れていた。素早いパッセージからオーケストラにつながるところも、あくまで全体としての音楽の調和を感じるようで、演奏が終わってみればとても好感の持てる確固たる姿勢の目覚ましい演奏だった。華やかな見た目ながらみなぎる力は強く、勢いがあり、ベートーヴェンも喜ぶような意気のある気品が横溢していた。


フランクの交響曲は、近頃聴いた藤村実穂子さんによるマーラーの歌曲での感動とは異なる、オーケストラによる最高の喜びに包まれた。思えば広響でこれほどフランスの色を持った演奏に接した覚えはなく、下野さんからはウィーンを土壌とするドイツ音楽の色を感じるが、管楽器を聴いていてフランスの色彩という言葉が繰り返し浮かんできた。弦楽器の伸びやかで感情豊かな演奏のなかで、各パートの印象は濁らず明確に浮き彫りされ、ティンパニーの音もシャルル・ミュンシュを思い出さずにはいられない音の連打があった。それは金管楽器も同様で、ホルンのすばらしい響きを筆頭に雑にならない音量が高らかに吹き上げられていた。それらを描き出す阿部加奈子さんの力量は疑いなく、第一楽章からスケールの大きさは膨れ上がり、これ以上盛り上がらないと思われるさらに上の響きが吹き溢れていた。自分にとって目の前にしたい最高のフランクの交響曲が広げられていて、第一楽章が終わった時点の喜びは最高潮にあり、まだ楽しみが残っていると休みの間に考える幸せはこの上なく、これこそ最上の贅沢だと顔はにんまりしていた。


いつもが何かは自分の固定観念によるにしても、普段の広響とは異なるフランスの響きは別の一面を見せていて、さすがプロの楽団だと表現力の地力に頼もしくなった。我が街のオーケストラと呼ぶには自分こそ数十年かかるにしても、すこし先取りに誇らしくなってしまう。身近に生の音楽を味わえる恵まれた環境に、今日も帰りの川沿いでしみじみするばかりだった。

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