9月3日(木) 広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「アンサンブル・プレギエラ25周年記念演奏会第7回・広島公演」を聴く。

広島市中区加古町にあるJMSアステールプラザ・オーケストラ等練習場で「アンサンブル・プレギエラ25周年記念演奏会第7回・広島公演」を聴く。


チェロ:毛利伯郎

ヴァイオリン:佐久間聡一

ヴァイオリン:甲斐摩耶

ヴィオラ:森口恭子

チェロ:染谷春菜

チェロ:熊澤雅樹

ピアノ:小林知世


ハイドン:ディヴェルティメント ニ長調

ポッパー:レクイエム

シューベルト:弦楽五重奏 ハ長調


ひさしぶりに室内楽を聴きに行った。劇や踊りなどいまだコビット十九の影響で開催の至らない中で、演奏会が行われるか様子を見ていたら、予定通り開かれることになった。率直に喜ばしいが、演奏会のあとが大切なのでぬか喜びはできない。


勇気のある開催だと思われる今夜の演奏会は、もはや前菜としか思えなくなっているハイドンから始まり、落ち着いた調子の中で3本のチェロはそれぞれ異なった音を出していた。その中でも毛利さんの音は一段表情豊かに響いていて、厚く柔らかく、それでいて伸びやかな存在の大きさはさすがで、同じチェロでもこれほど音色が異なるのかと聴き比べのような楽しみかたがあった。


初めて名前を知るポッパーの曲は、ユダヤ人という出自を知るだけでその響きを固定観念を目当てに探してしまうので、鎮魂よりも、むしろ数段音圧の強くなったチェロの三重奏から、悲痛な叫びを感じてしまった。その中でピアノは落ち着いた丸さを持つも、チェロの重なりが分厚い唸り声の哀悼を強烈に響かせていて、それほど長くない曲ながら情操はずいぶんと揺らされた。


休憩後のシューベルトは、ひさしぶりだからという理由抜きに、室内楽でしか味わえない躍動感漲る演奏に貫かれていて、ここ数年の中でも優れて素晴らしかった。いまさらシューベルトの天才を知るように、冗長に思われる箇所もわずかにあるが、恐るべき構成力で組まれていて、第一楽章から単調にならない優れた音楽が有機的な発展を見せていた。この場所でブラームスやシューマンを何度か聴いたが、思い出して比べてもこの曲の幅の広さと変化は独特な完成度があり、いまだシューベルトという作曲家に決定的な色が見えない自分でも、どことなく知れるような特殊な豊かさを感じられた。


そのシューベルトの曲は、室内楽だからこそ体験できる演奏者それぞれの性格を持った音色で紡ぎあっていて、お互いで高め合うような理想の親和力を見るようだった。それぞれの思いが見え隠れするようで、二台のチェロの関係図や、ヴィオラの支え、明確に色の異なる隣合うヴァイオリンなど、柔らかさ、おおらかさ、鋭さ、伸びやかさなどが絡み合い、音楽を中心にした愛情が若々しく進行していった。特に、甲斐さんのヴァイオリンが高らかに歌われていて、その存在は第一楽章から中心にあったが、第三楽章の高音部などはものすごい感激が天に突き上がるようで、第四楽章の強烈なパッションと一体化した進行は、もう、喜びに溢れかえっていた。


こんな嬉しく、元気になる演奏会は本当に珍しく、何にバテての体調の鈍さだっただろうか、数日それほど快調にならずにいた自分が、音楽によって楽々と息を吹き返した。音楽がいかに力を与えてくれるか、今日の演奏会はその恩恵にあずかり、もう本当に嬉しくてしかたなかった。

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